自慢できるほどの恋はしたことがない

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「なんかさ、栄二くんがさ、外国に転勤になるらしくて、もう会えないってラインが来た」松子さんがポツリと言った。 「そうなんだ。よかったじゃん」 「よくないよ、私は。一緒についていくって言いたかった」  それはダメです。吾輩が路頭に迷います。 「あんなやつのどこにそんなに惚れてんのかねえ、口がうまいだけの詐欺師にしか見えないけどね」 「でも私、言わなかった。私じゃないんだろうなって思って」    なんとけなげな松子さま。そんなに自分のことを卑下するなんて。自分を過小評価しすぎです。朝子さま、もうちょっとなんとか言ってください。    松子さまが椅子から立ち上がり、窓に近づき外を見ている。積乱雲がモクモクと立ち上がり、アイスクリームのようだ。 「雨が降るのかな…」涙声になった。 「ほらほら、もう、せっかくのアイラインがグズグズになっちゃうよ」  朝子さんがティッシュを手渡した。松子さまがそれでそっと目尻を抑える。吾輩は松子さまのおそばに行き、ニャーと声をかけた。 「男の子なんて、ミジンコぐらいうじゃうじゃいるのに。松子にぴったりのピシッと一本筋の通った男子を私が紹介してあげるからさ」 「…………○✖︎⬜︎△Ωθεφ🍺🍶🍢🍗…………」 「ちょっと何言ってるか、よくわからないけど、飲みたいってこと?」  ニャ。
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