自慢できるほどの恋はしたことがない

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 吾輩は猫である。名前はシロ。白という名前だけれども、体毛は茶色だ。しかし目はグレーなのだ。とても変わっていると、松子さまはいう。  松子さまは相変わらず、朝起きてすぐにアイラインをひく。その時に吾輩にお呼びがかかる時がある。 「シロ、ちょっときて」鏡の前まで吾輩は行って、松子さまを見上げるのだ。 「うーん、そうかあ、そういう感じかあ」と松子さまは妙に納得される。  そう言って松子さまはペンをもち、吾輩のような目になるように、アイラインの入れ方角度を工夫するのだ。何でも吾輩の目のようになりたいと、いつもおっしゃっている。    松子さまがなぜ毎日毎日、アイラインをひき続けるのか、吾輩にはわかるような気がするのだ。それは今日も素敵な自分になるためだということも、もちろんあるだろうけれど、もう絶対に泣かないと、自分を鼓舞するためだと吾輩は思うのだ。  吾輩はただ、松子さまの目を見て、毎日ニャーと声をかけるばかりである。
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