Angie

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「・・・行ってない。なんか怖くて。オレのこと憶えてなかったらどうしようって」 ああ、来てないのね。 「じゃあなんで、今になって来たんだ?」 昨年新人賞を取ったからか? だから自信がついた? いや、でもそれはオレが杏樹を憶えているかどうかには関係ないか。 なんか、他にきっかけがあったのだろうか。 「・・・今ならきっと弱ってるから、つけ込めるんじゃないかと思ったんだ。だからあの日のあの時間を狙って行った」 ぼそっと呟くように言ったその言葉に、オレの頭には疑問符が浮かぶ。 あの日のあの時間て、結婚式の日で二次会の後だよな。なんでオレが弱ってるんだ?疲れきってはいたけど。 そう思っていたら、杏樹がとんでもないことを言った。 「ずっと好きだった人の結婚式で、しかも二次会の幹事だっただろ?だから傷心の上に、失恋したやつのために二次会をしなきゃいけなくて、だから・・・」 ! 「は?!」 好きな人? あいつが? 「何言ってんの?お前。あいつは親友であって別に好きなわけじゃねぇっ」 とんでもないその発言に、オレは思わず声を荒らげた。そのいきなりの変貌ぶりに、杏樹は驚いたように目を見開くけど・・・。 なに? もしかしてオレが大失恋して弱ってるから、あの夜オレのところ来たって言うのかよ。弱ってるところにつけ込むために。 オレは盛大にため息をついた。 だったとしてもオレはそんなヤワじゃない。 いくら失恋した所に超絶イケメンが来たところで、そんなホイホイついては行かない。 て、なに? その時点で、オレが憶えてるかなんて関係なくなってるじゃん。 そこを突っ込んだら、杏樹は慌てたように言った。 「もう憶えてなくてもいいって思ったんだよ。あんたの居場所が分かって、でも行く勇気なくて、だけど会いたくて。そんなの繰り返してたらおかしくもなるだろ?」 そりゃそんなこと2年もしてたらおかしくもなるけど。 「だったらもっと早く来ればいいだろ?」 どうせオレの記憶なんて関係なくなってたんだから。 「・・・だってあんたには好きな人がいただろ」 「好きじゃねぇ」 「でもそう思ってたんだよ。ていうか、そう見えるくらい仲良かっただろ」 「親友なんだよ」 本当にそんな気持ちには1ミリもなったことはない。それはきっとあっちも同じだ。 だけど、杏樹はそう思ってて、オレが弱ってた(と思った)あの夜に来たと言う。 「でもお前、なんであの日が結婚式だって知ってたんだ?しかも二次会の幹事だってことも」 興信所に頼んだのは2年前だよな? そう思って訊いたオレから、杏樹がすっと目をそらす。 怪しい。 「何隠してるのか知らないけど、いま言っちゃえよ。怒らないから」 いまのこの告白タイムなら、情報過多で流せるかもよ? そう思ってじっと見つめたら、杏樹が顔を顰めて唸り始めた。 イケメンが台無しだな。 そう思いながらもじっと見つめる。 「ほら、早く言っちゃいな」 すると杏樹は唸りながら、それでも話し始めた。 「実はずっと、調査を継続してたんだ」 ん? 「この2年、ずっと定期的に調査報告してもらってたんだよ」 ・・・・・・・・・え? ずっと調査って、ああいう興信所って金かかるよな。一度の調査でも結構な金額だと思うけど・・・え?それを2年・・・。 「おま・・・バっカじゃないの?何オレなんかにそんな大金かけてるんだよっ」 いくら超有名人だって言ったって、他にもっと使い道あっただろ? あまりのことに思わず言ったオレに、杏樹は一瞬ぽかんとなるもいきなり笑った。 「な、なんだよ」 いま笑うところじゃないだろ? 「だって・・・突っ込むとこそこなんだと思ってさ」 そう言って涙まで流す杏樹に、オレは訳が分からない。 「知らない間に2年も見張られてたんだよ?そこはいいんだ」 そう言って目尻の涙を拭う杏樹に、『確かに』と思う。 そうだよな。 2年て、結構な時間だよな。 その間オレをずっと誰かが見てたなんて、確かに気持ち悪いけど・・・。 「でもそれやってたのプロなんだろ?仕事でしてたんなら別にいいかな・・・」
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