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これがあの、アルファとオメガとの間で分かる気持ちと言うやつなのだろうか。
初めての体験にドキドキが加速する。
「憶えてたんだ。てっきり忘れられたのかと思った」
そしてさらにむぎゅむぎゅと抱きしめる。その腕の中で固まりながら、ふと思った。
本当にあのチビガリなのか?
よくこんなに立派に育ったな。
ドキドキしながらも、なんだか感慨深い。
長らく会わなかった親戚の子供と久しぶりに会った気分だ。
「・・・でさ、お前はAngie?」
ぎゅうぎゅうされているうちに、ようやく混乱していた頭が落ち着いてきたオレはさらにそう訊いてみた。
この男・・・杏樹はあの小さな杏樹だとして、それが成長して有名人のAngieになったのだろうか。
本人からはそんなこと言われてはいなけれど街に溢れる有名人Angieの顔はこの杏樹と同じものだ。むしろ違うというのが難しいほど、2人はそっくり同じ顔をしている。それに寝ぼけてうろ覚えだけど、マネージャーという男がAngieだと言っていた。
けれどオレの質問に答えない杏樹。だからオレはもう一度訊いてみた。
「なぁ、お前がモデルのAngieなの?」
すると杏樹は抱き締める力を緩め、オレの顔を覗き込む。
「・・・だったらどうする?」
そう探るように訊く杏樹にやっぱりと思いながら、オレは考え考え言った。
「どうするって・・・オレさ、Angieのこと知らなかったんだよ。だけどお前とあんなことになって、初めて周りに溢れるお前の顔が目に入ったわけ。で、正直びっくりした」
今もこの状況にびっくりしてる。
「だからさ、どうするも何も、なんで?とは思ってる。状況がまだよく分かってないんだ」
一体何が起こっているのか。
「あの杏樹だって聞いてもまだピンと来ない。だってあのチビガリが別人のようにかっこよくなって、誰もが知る超有名人になってたんだよ?しかもそんな有名人とあんなことになって・・・。大体、10年前に一度会ったきりなのに、なんでオレだと分かった?あそこに来たのは偶然だったのか?」
100歩譲って、あの子供がAngieだというのは理解出来る。アルファとしての性質が開花したのだろう。本人もすごく頑張ったのかもしれない。でもじゃあ、そのAngieがなんで今になってオレの前に現れたのか。
あの時たった一度会っただけのオレは、杏樹の名前は聞いたけど自分の名前は教えなかった。それに住所も連絡先も教えていない。
オレたちは公園でたまたま話をしただけの関係だ。なのにどうして、またオレの前に来ることが出来たのか。
だけど杏樹は黙ってしまった。
「言い難いこと?」
偶然では無いのか。
もしかして、オレには言えないことだろうか。
「・・・・・・・・・」
視線を逸らす杏樹に、オレは少し不安になる。けれどそれでもじっとだまって見つめてたら、視線はそのままに杏樹が口を開き始めた。
「・・・あの時、あんたと約束したろ?だからオレ、あんたのことを探して会いに来たんだ」
約束?
オレと?
あの時なんか言ったのは憶えてるけど、何言ったっけ?オレ、なんか約束したのか?
「あの時ああ言ってくれたから、オレ頑張れたんだ。だからどうしても、会いたくて。約束したし。でもどこにいるか分からなくて、それで有名になったらあんたからオレを見つけてくれるかと思ったんだ」
有名になって顔が売れたら、オレが杏樹だと気づいて連絡が来るかもしれない。杏樹はそう思ったんだろう。
「でもいくら待っても全然来てくれなくて、だから・・・その・・・プロにお願いしたんだ」
あんなたった一度会っただけのオレを探して待っててくれていたと知って、オレは申し訳なく思っていたけど、最後の言葉に引っかかる。
「プロ?」
「・・・興信所だよ。まあ、金はいっぱいあったし、自分で探すより効率いいし。で、調べてもらって、実は2年前に分かってたんだ。あんたのこと」
居場所が分からない人を探すのに、興信所を使うのは特になんとも思わない。オレもお金があったらそうするだろう。けど、2年前から知ってた?
「2年前って・・・その時オレに会いに来た?」
こんなすごい美人だったら、さすがに憶えてるよな。
だけどオレは、全く覚えがない。
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