Angie

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コンシェルジュがいるマンションなんて初めてだ。 エレベーターを降りてエントランスに行くと、まるでホテルの様にコンシェルジュが立っていた。その前をどきどきしながら通り過ぎ、オレはマンションを出ると普段は使わないタクシーを拾い、無事に自宅へと帰ったのである。本当は電車で帰りたかったけど、そこがどこだか分からないし、何より身体が辛かった。なのでオレは泣く泣くなけなしのお金でタクシーを拾って帰ったのだけど、まあ、正解だったよね。オレは帰った途端に倒れ込み、その後這ってベッドまで行ったのだから。 結局、オレは何が起こったのか分からなかった。 あの二次会の後、一体オレに何があったんだろう? 何がどうしたらあんなタワマンの最上階の部屋(エレベーターに乗って気づいた)で、あんな顔も身体も完璧なアルファとエッチ三昧になっていたのか。 思い出すと恥ずかしくて見悶える。 今まで無縁だったのに、なんであんなにいっぱいいろいろ知っちゃったんだよ、オレ。 記憶が無いと言っても朝からのことはバッチリ憶えていて、あんなこともこんなこともされて、あんなことになってしまった自分に、もはや生きていけないレベル。 もう恥ずかしくて恥ずかしくて、オレはベッドの上でバタバタと悶え狂う。 けれど週末そんなことがあっても、月曜日が来れば日常に戻る。 サラリーマンの悲しい性。 オレはまだ疲労が残る身体を引き摺って、いつものように出勤した。 いつもの時間にいつもの電車。 いつもと変わらない満員電車に揉まれながら車窓を眺めていると、それは突然目に飛び込んできた。いつもなら気にもとめないビルにある大看板。そこにあの男がいたのだ。 !!! もちろんホストはそんなところに大看板など出しはしない。現にそれは大手化粧品会社の広告だ。その広告に、その男が恐ろしいくらいの美貌で写っている。 朝の満員電車の中で、オレは一人パニックに陥る。 どういうことだ? 今すぐあの看板のことを検索したい。だけど身動きのできない満員電車。駅に着くまでは無理だ。 焦る気持ちを抑えて電車に揺られること数分。オレはようやく最寄り駅で降り、早速スマホを開く。歩きスマホは良くないと思いながらも出社時間もあるので、注意しつつ検索する。 化粧品会社の広告と検索したら、その男はすぐに出てきた。そして驚いたことにその男は、どうやら国民的有名人らしいのだ。 広告から人物を検索すると、出てくる出てくるその男の情報が。それは本当にたくさん出てきた。 その男、名前を『Angie(アンジー)』といい、元々モデルをしていたのを昨年出演した映画で新人賞を取り、今はモデルと俳優をしているらしいのだが、その顔を見ない日はないと言うくらい、押しも押されぬ人気俳優らしいのだ。 と言われても、オレは全くこの男・・・Angieを知らなかった。 テレビは見ないので家には無いし、芸能界は全く興味がなく、ドラマも映画も見ない。それにファッションにも興味無いので雑誌の類も一切買わないのだ。 オレが見るのは某動画配信サービスの動画だけだ。でもこうして見てみると、動画のCMにもたくさん出演していたみたいだけど、CMなんてほとんど見てないしすぐスキップしてしまっていた。だから全く記憶になかったのだけど、あの大看板と言い、気をつけて見てみれば町にはAngieが溢れていた。 毎日使う駅やビルの看板、コンビニに行けば雑誌の表紙を飾り、テレビには複数もの企業のCMに出ている。 その現実に、オレは呆然とする。 人間て本当に、見たいものしか見ていないんだな。 会社に着くまでに、どれだけのAngieを見たことか。しかも注意していると、会社の女子社員の話にも普通に名前が上がっている。 そんな超スーパー有名人。 それを知れば知るほど、オレはあの見た目完璧アルファが、この超有名人であるAngieだとは思えなくなってくる。 思えばあの男は自分の名前を名乗っていない。 確かに見たこともないほど綺麗な顔をして、スタイルも人間離れしていて、あの若さでタワマンの最上階に住んでいるけど、きっとただ似ているだけのどこぞのナンバーワンホストだ。
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