Angie

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大体、もしあの男がそんなスーパー有名人だったなら、何でオレなんかと一緒にいたのだろう。そもそもそんな人とオレが出会うなんて有り得ないのに、それでもまかり間違ってそんな出会いがあったとしても、こんななんの取り柄もない、見た目も普通のオメガのオレを自分の家になんて連れて帰るだろうか。 ・・・うん。 あれはただ似ているだけの、どこぞのホストだ。 オレはそう結論づけた。 そしてオレは、いつものようにそのまま仕事をした。 いつもと変わらない会社に、いつもと変わらない日常。 本当は何かが変わると思ったんだ。 世界が変わるとまでは言わないけど、オレの人生で初めて起きた、アルファとのアクシデント。この退屈で平凡な毎日が、ほんの少しでも変わると思ったんだけど、現実は何も変わらなかった。本当に何も起きなかったんだ。 今までアルファはおろかベータともそういう関係になったことがなかったオレは、変な話、経験したら世界が変わると思ったんだ。 そういうことは、好きな人とするものだから。 オレとしたと言うことは、オレのことを少しでも好きになってくれたという事で、だからそこから関係が始まるって、なんとなく勝手に思ってた。 本当は分かってる。 人は気持ちが伴わなくてもそういう事が出来るって。特にアルファとオメガはお互いにしか満足出来ない本能みたいのがあるから、むしろそれだけの関係も多いんだって、分かってる。 だけどオレはそれが嫌だった。 オメガだから仕方がないと、何も思っていないアルファとするのは嫌だった。だからそんな風に見られるのも嫌で、今までやってくるアルファを蹴散らしてきたんだけど・・・。 やっぱり、ただ遊ばれた(それ)だけだったんだ。 あれだけの容姿にあれだけの財力があるのだから、性欲を満たす存在には困らないだろうに、なんでオレなんて連れ帰ったのだろう。 フルコースばかりで飽きて、ちょっとファミレスの安いハンバーグでも食べたくなったのか。それとも本当に誰でも良くて、たまたまそこにいたから持ち帰っただけかもしれない。 ・・・なんでもいい。 オレはただヤり逃げされただけだったんだ。 結局オレも、その辺のオメガと変わらなかった。 心が少し痛む。 でもいい。 いい勉強になった。 やっぱりアルファはオメガをそういう風に見ているわけで、こちらが少しでも気を抜くと、すぐにその隙を突かれてしまう。 だからもっと気を引き締めていかないと。 そう思って、オレはあの異常な週末のことを忘れることにした。 そうして毎日同じ日常を繰り返すうちに、オレは本当にその時のことを忘れていった。忘れると言うか、あまりにもオレにとっては現実離れしたことだったから、時間が経つにつれて実感がなくなり、まるで夢の中の出来事のように思えてきたのだ。 実際オレの生活にはなんの変化もなかった。 あれからあの男が現れることも、何かしらで接触してくることも無く、日常は至って普通だ。それに、身体は清くはなくなったとはいえ、そんなことは時間が経ってしまえば元通り。違和感も痛みも無い。 実は本当に夢だったのかもしれない。 と、半ば本気で思ったりするが、それは30歳になった時にわかるだろう。 魔法が使えるようになってるかも。 ・・・なんて冗談はさておき、それくらいオレはあの時のことを忘れ、いつもの生活をしていた。 けれどそれが次第に崩れていく。 最初はほんの少しの胸焼けだった。 なんだか胃がもやもやして、好きだった食べ物がおいしく感じなくなった。 味覚が変わったのか。 それとも体調不良か。 いつもならそれくらいでは病院には行かず、胃薬を飲んで凌ぐのだけど、今回はその不調に胸がもやる。 今まではそんなことになるどころか、そんな原因すらも全く無い生活をしていたので、多少の体調不良は全く気にしていなかった。だけど今回は違う。万が一がないと思っていても、可能性は消すことが出来ないのだ。 いや、まさか。 きっとすぐに治るはず。 そう思って様子を見るも、胃のむかつきは治らず、酷い眠気に襲われるようになった。しかも匂いに敏感になって、ついには本当に吐く始末・・・。
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