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彼女たちが降りてからも、僕は山手線に乗り続けた。
グルグル回る電車にはたくさんの乗客が乗ってきて、その人たちを観察して、見送った。
同時に僕自身、これからの人生と目の前の可能性を考え続けた。
あっという間に1時間が過ぎた。
そろそろお昼を食べるべきだ。
「この電車は大崎止まりです。」
車内アナウンスが流れた。
ずっと終電まで走り続けると思っていたこの電車にも、終点はあるらしい。
これまでの人生では知ることのなかった、小さな発見だ。
僕は次の駅でホームに降りる。
これまで食べたことのなかった駅内の蕎麦屋に入ってみることにした。
今はなき立ち食い蕎麦屋へのちょっとした憧れを思い出したのだ。
これからを考えると節約が大事だけれど、今日はちょっぴり贅沢で530円のきつねそばにしよう。
罪悪感を誤魔化すためにと小銭で食券を買いたいのだが、10円だけ足りない。
はて困ったと思った時、朝拾った10円玉を思い出した。見向きもされず落ちていた10円玉だってこんな時役に立つではないか。
ポッケから出てきた10円玉を改めて見てみようと思ったが、時すでに遅し。
その10円玉は他の20円と左手の中で混じっていてどれだかわからなくなっていた。
食券を渡して空いている席に座る。窓側の席だ。
外を見ると、曇天に戻った空は、確かに雨が上がっている。
「雨があがったら、何をする?」
そう言っていた彼女たちも、もうさっきの会話なんて忘れてどこかで楽しく遊んでいるのだろう。
なんてことないあの会話が隣のおっさんを救ってたなんて知ることもなく。
空はだんだん雲が薄れて、もうじき陽がのぞきそうに見える。
あれ、傘をさしてる人もいる。実はまだ小雨なのかな?
どちらでもいいか。僕の中の雨はもうあがったことにしよう。
そしたら”何をするか”なんて、すぐに答えれることじゃないけれど、一つ一つ試していけばいいんだ。
この次に見る空は晴れているかもしれないし、また雨かもしれない。
そんな変わりゆく空模様をまた見れるように。
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