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「雨があがったら、何をする?」
傘を畳んで電車に乗ってきたその声の主は、高校生らしき三人の女子だった。
キャラクターのぬいぐるみを鞄につけて、制服を崩して着こなす彼女たちは僕の斜め向かいの席に並んで座った。
「えー、こんなに降ってたら午前はさすがに無理だよねー」
「私なんて傘も持ってきてなかったからね」
なんの話をしているのかわからないけれど、どうやら雨で予定が狂ってしまったらしい。
学校をサボって来ているようだ。
「じゃあ早いけど昼は?」
「はや!まだお腹空いてなーい」
「お母さん今日はいらないって言ったのにお弁当作っちゃたから」
「あたしも〜」
取り留めもない会話が続く。
生き急いでいる真ん中の子を中心に今後の予定を練り直しているのだが、話はすぐに脱線して真っ直ぐには進まない。
「だってさ、あたしたちが小学生の時とかさ、15分休みとかで毎回大喜びで動き回ってたじゃん」
「たしかに」
「そんなふうだったのが5年?くらいたっただけでさ、一日あるのに雨降っただけでガン萎えしてるウチらやばいじゃん」
なるほどな、と思った。残りの二人も笑っている。
「そう考えたら、今日の予定が雨なんかに狂わされてんのまじでウザくない?」
「たしかにー」
「今こんなふうでさ、ウチら大人になったらマジでなんもできなくなりそう」
「ミノリとか絶対そうなるよね今でも超ネガティヴだし」
「ええ〜絶対やだーー」
からかわれたミノリという子がスマホを見ながら反応する。友達と話してても一瞬もスマホから目を離さないのは今の子らしい。
「じゃあさ、今この電車乗っちゃったけど次で降りて乗り換えよ?こっちの方が直で渋谷行くよりお昼まで雨だから絶対いいよ」
ミノリが急にスマホを見せて話し始めた。
「え、なに調べてたの?さっき別の見てたじゃん」
「そうだけど、カホが言うから調べたの」
「はや!」
「あたし最近気づいたんだけどさ、遠い先のことなんて自分で考えてたってブルーになっちゃうじゃん?だから人の話聞いて適当に調べて、目の前のこと全部潰してった方が絶対いいって。萎えてるヒマなんてありませ〜ん」
「え?いきなりウケる」
「ねえ、いいこと言ったじゃん!!」
僕はドキッっとさせられた。
もしかしたらおちゃらけているように見える彼女たちは、ルーティーンをこなすだけになった大人たちよりも、ずっと大事なことを知っているのかもしれない。
3人組の女子はその後もああだこうだとくだらないことを言い争いながら、次の駅で下りて行った。
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