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追悼
葬式は極シンプルで。
後日、お別れの会が盛大に催されるらしい。
顔を上げた先ではあなたが笑っている。
思えば、あなたはいつも穏やかに笑っていた。
わたしはあなたが好きだった。
単純に師として焦がれていたし、それ以上にあなたを求めていた。
あなたを好きだった。
穢したくなかった。
嫌われたくなかった。
認められたかった。
同じだけ、愛してほしかった。
一心に弾き続ければ。あなたに追いつけば。
そうすればいつか。
あなたが振り返って手を差し伸べてくれることは無い。
けれどもしも、わたしがあなたに追いつくことができたなら。そうすれば、あなたはわたしの手を取ってくれただろうか。
あなたはとても厳しい師だった。わたしに妥協を許さなかった。けれど上手く出来たときには必ず褒めてくれたから。
もしも――
十年。ひたすらに弾き続けた。
あなたに焦がれ続けた。
抱き潰してしまいたかった。
こんな形で置いていかれるのなら、いっそ嫌われても。
あなたの遺影を前にわたしは拳を握る。
わたしを置いていったくせに、あなたは穏やかに笑っている。いつもと変わらぬ笑みでわたしを見つめている。
だからわたしは、握った拳を振り上げられない。
馬鹿みたいに涙を流して、ただあなたを見つめている。
きっとこれからも、わたしはただピアノに向かうのだろう。
あなたが与えてくれた音を、旋律を、一心になぞって。
追いかけても追いかけても届かない背中に手を伸ばし続けるのだろう。
斎場に心地好く流れるあなたのピアノの音が、詮の無い幻を求めさせる。
ゆるく立ち籠める白檀の香が、戻らない日々を悔ませる。
焼香の煙の向こうからあなたがわたしに微笑みかける。
ああどうか。
どうか、わたしの音がいつかあなたに届きますように。
厳しくて優しくて、狡いあなた。
こんな選択しか許してくれないあなたが、わたしの総て。
願わくば十年後のわたしも
あなたを追い求めていますように。
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