2人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
遊園地を三つ子が歩いている。しかしその顔立ちはそれぞれといったもので、まるで似ていない。
長男はよく日に焼けていて浅黒く、精悍で厳しい身体つきをしていた。
次男は透けるような色白で、まるで映画スターのようにスマートで美しい。
ところが末っ子の三男坊。のろまでブヨブヨと太っており、従順で無垢であるものの、吃りと赤面症のため周囲に酷く馬鹿にされていた。
三人は連れ立ってよく遊園地に行った。もちろん兄弟仲が良いからではない。三男がジェットコースターをとても怖がるので、上の二人が無理に乗せて遊ぶのだ。
先ずは長男が、嫌がる三男の頭を殴ってジェットコースターに乗せる。あんまり抵抗するようだと首を絞めたり股間を蹴り上げたりと、大人しくなるまで痛めつけた。
半ば過呼吸に陥りながら乗せられたコースターが動き始めると、泣いて喚いて怯える三男。まるで恐怖映画を百倍速で観ているかのようなその不様を眺めて、長男は満足そうに頷く。やがて急降下するところでも三男から顔を逸らさず観察し、後でモニターに映された三男の顔が気に入ったものであれば、時には写真を買う程に愉しんだ。
そうして死ぬような思いでコースターを乗り終え、真っ赤な顔をして、ぶるぶると震えながら蹲っている三男。その肩に次男の手が置かれる。
「はい、あと一回」
三男の顔はますます赤らげ、顔を引き攣らせ首を横に振るも、吃りと恐怖で発音がままならない。目を充血させて「うう」だか「あふ」だか呻く三男に、次男はその美しい顔をサディスティックに歪め、
「乗ってくれたら、オマエが好きだといっていたあの娘さん、今度食事に誘ってやるがどうだい?」
などと、言葉巧みに丸め込み三男にうんと言わせた。
美味しい食べ物、きれいな女性、欲しいゲームソフト。次男は様々なもので三男を唆すが、その約束が果たされた事は一度もなかった。
「あと一回」
その約束すら果たされない。
次男が一緒に乗れば、待ってましたとばかりに長男が人差し指を天に向ける。
「あと一回」
そして長男が一緒に乗れば、にこにこと次男が人差し指を立てるのだから。
「あと一回」
「あと一回」
「あと一回」
「あと一回」
こうして、三男が気絶するか吐瀉するまで遊園地を巡るのが、二人の兄が最も好む遊びだった。
最初のコメントを投稿しよう!