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わたしの身体を濡らしていた雨が止み、ポタリポタリと雫がおちていく音が響いている。
「かわいそう」
子供たちがわたしの身体を拭くタオルを持ってきてくれたけれど、わたしを家へと話す人はいない。
ブルブルと身体を震わせると雨水がまだ染み込んでいたのか、わたしの家の外まで雫が弾き飛んでいく。
「おい!イヌあたってきたぞ」
声が聞こえた。人間ではないようで家からキョロキョロと見るけれど、姿が見当たらない。濡れてしまった段ボールハウスから前足を出して脱出すると、叫んだのは緑色のカエルだった。
「ごめんよ。カエルくん」
濡れたアスファルト、わたしの肉球が湿っていく。
「まぁ、いいってことよ。それよりずっと濡れた家にいるのか?」
わたしは濡れた家をしばらく見ていた。雨で流れてしまった文字は黒々してもう何が書いてあったかすらわからない。
「カエルくんはどこに行くのさ?」
「気ままな旅だな。ついてくかイヌ?」
このまま新しい人を待っていても、また濡れてしまうだけだろう。雨のなか誰かを待つのはもうやめた。
「わたしもついていいのかい?」
ピョンピョン跳ねるカエルくんがゲコゲコと鳴く。
「いいってことよ!!まぁおれさまを守ってくれるならな」
カエルくんが行く先に命を落としたカエルがいた。
いつ何が起きるかなんてわからない。それは動物の世界でも同じ。
わたしは大きくワンと吠える。そして肉球を湿らせて進む。
背中にカエルくんがピョンと飛び乗る。飛び疲れたらしい。
「おれさまイヌのともだちはじめてだ」
「わたしもだよ」
カエルを乗せたイヌがこの後話題を呼ぶようになったのだが、それはまだ先のお話。
クンクンと鼻を動かし感じる雨の湿ったにおい。背中越しに感じる小さな鼓動を感じながら、わたしたちは少しだけ晴れた道を歩いていく。
おわり
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