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彼が目を覚ましたのは、水色のベッドの上だった。
「具合はどう? 獣医さんが言ってたよ。熱中症だってさ」
女の子の声だった。上体を起こして、利久は「ぎゃっ」と悲鳴を上げた。
人間ではなかった。だるまのような大きな体に、箒のような二本の腕。正面には黒い眼がたった一つしか付いていない。宙をぷかぷかと浮きながら、表情の読めない顔で利久を見つめていた。
「な、何者だ。俺を標本にするつもりか?」
「あはは、そんなことしないよ」
利久は、上掛けにくるまって怯えている。その生き物は笑い声を上げて、小さな機械を取り出した。
「ふつうの人間には、きっと見慣れない形態だよね。姿を変えよっか」
釦を押すと、あっという間に体の形が変化した。
白いワンピースをふわりと揺らす。人間の少女に変身して、謎の生き物が可愛らしく微笑みかけた。
「私、クラドセラ。セラって呼んで」
彼は目を見張った。人間より、ずっと科学が発達しているようだ。
「俺は利久。……さっそくだけど、ここは一体どこなんだ? 俺は水溜りにダイブしただけなのに」
セラは勢いよく窓を開けると、彼に向き直った。
「ここは、その水溜りの中だよ。ようこそ、ミジンコの国へ!」
「み、みじんこ……?」
促されるまま、窓から身を乗り出す。外を見て、利久は口をあんぐりと開けた。
大都市だった。不思議な形をした高層ビルが、森の木々のようにひしめき合っている。空には巨大な穴が一つ開いていた。穴の向こうには見覚えのある校舎の外壁と、入道雲がそびえている。まさかと思ってよく見ると、その穴は、特徴的なひょうたんのような形をしていた。利久が頭から突っ込んだ水溜りと、全く同じ形だったのだ。
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