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利久が案内されたのはレストランだった。二人分の皿の上には、緑色をした謎の料理が盛り付けられている。
「あの、これは……」
「ミドリムシのソテーだよ」
彼女がにこりと笑って答えた。
彼は、食べ物には保守的だった。普段だったら、初めて目にする料理なんて絶対に口にしない。だが、空腹には勝てないのである。
利久は匙を握り、震える手で、緑色の料理を掬ってみた。目をつむって、おそるおそる口に含む。眉間にしわを寄せながら咀嚼していたが、だんだんと、表情が柔らかくなった。
「意外といける」
ワカメのような風味だった。シンプルな塩味で、案外悪くない。あれよあれよという間に、ぺろりと平らげてしまった。
自分の匙を取って、セラは微笑んだ。
利久は店内をぐるりと見た。人間は彼だけだった。皆、食事をしながら、二人のことを不思議そうに眺めている。
「……さっき、『ミジンコの国』って言ってたよな。君たちはミジンコなの?」
彼女は頷いた。
「ヒトは、サルの仲間から進化したと言われてるよね。あなたたちの祖先が石の道具を作ったり、火を扱うようになった頃。私たちの祖先はミジンコの仲間から枝分かれて、智能を発達させる方向に進化したんだよ」
セラは頰杖をつき、遠くを見やった。
「私たちは何万年ものあいだ、池や水溜りの底に村をつくって暮してきたんだ。ただ、水が干上がるたびに、村をつくり直さなくちゃならないのが難点で……。でも、今から千年くらい前に、偶然、とある水溜りが亜空間が繫がったの。この国は、その亜空間の中に造られたんだよ」
「あの水溜りが、ミジンコの国への入口?」
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