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千年前といえば、日本は平安時代だ。利久たちの大学が建つより、ずっとずっと昔のことである。セラたちの祖先が亜空間に住み着いたあと、この場所には何度も水溜りができたり、干上がったりしたはずだ。地形が変って、水溜りが全然出来ない時代もあったに違いない。だが、水溜りが消えても、この空間は消えなかった。永久に乾かない場所を見つけたおかげで、ミジンコたちはこんなにも立派な文明を築くことができたのである。
「それにしても、ミジンコって一つ眼だったのか。教科書には横からの写真しか載ってないから、知らなかったな」
「人間は私たちのこと、誤解してるみたいだね。私はヒトの言語を覚えるくらいには、あなたたちのことを知ってるけど」
利久は、はてと首をかしげた。
「もしかして、セラって生物学者?」
彼女は照れくさそうに言った。
「まだ学生だよ、あなたと同じ。大学で陸生生物について研究してる」
「へえ!」と、彼は目を輝かせた。
「さっきから気になってたんだけど、水溜りの中から、どうやって俺たちのことを調べてるの?」
「ヒトは、望遠鏡で惑星や恒星を観察するでしょ。私たちは、望遠鏡で地上の動物や植物を観るんだよ。もう、びっくりした。久しぶりに水溜りができたと思って、望遠鏡を覗いてたの。そしたら、急にあなたが落ちてきて……。利久は、何について研究してるの?」
「俺は古生物だよ。古第三紀の海の動物相について調べてるんだ。あっ、古第三紀っていうのは、今から六六〇〇万年前に始まった時代でね――」
二人は時間が過ぎるのも忘れて、生き物について熱く語り合った。
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