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ひょうたん型の水溜りに、泡がぶくぶくと立っている。
次の瞬間、「ぷはあ!」と大きな息をして、利久が水面から飛び出した。手洗い場でハンマーとタガネをゆすいでいた空良は、「ぎゃー!」と可愛くない悲鳴を上げて、たわしを斜面にぶん投げてしまった。
「利久! そんなところで何してんの?!」
空良の声で、彼はハッと我に返った。
辺りは既に夕焼だった。校舎の影が長く伸びている。彼が昼間に腰掛けた石も、工事車輌も、そのままの場所にあった。利久は数時間ぶりに、元の世界に帰ってきたのだった。
空良の助けを借りて、彼は水溜りからやっとのことで這い出た。ミジンコの国のことは、彼女には内緒にしておこう。一人で校舎裏の水溜りで泳いでいた、変な奴だと思われるだろうけど。
空はからりと晴れている。どうしてまた水溜りが出来ているのだろうか。
「バイトから戻ってきたら、荷物が全部置きっぱなしだったから、どこへ行ってるのかと思った。発掘道具、結局私が洗っちゃったよ」
口をとがらす彼女。その背後を見て、「あっ」と声を漏らす。
校舎の外壁には、洗い終えたばかりの道具が立てかけられていた。ひびの入った水受けから水が漏れて、ひょうたん型のアスファルトのくぼみに流れ込んでいる。
「ハンマーとタガネ、洗ってくれてありがとう! 君は命の恩人だ!!」
利久は涙を浮かべ、彼女に感謝の言葉を伝えた。空良は意味がわからなくて、いつまでも不思議そうな顔をしていた。
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