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 静かな教室に手を叩くような音が聞こえた。  空は灰色の雲に覆われて、窓ガラスには透明な点がひとつ、またひとつと数を増やしていく。  僕は彼女のノートを指差した。 「ここ間違ってる」 「え、うそ!」  天奈は「うわーほんとだ」とあわてて僕の指摘した場所を消しゴムで擦る。彼女の間違いが消しカスになって机に転がった。  再びシャーペンを構えた彼女を眺めながら僕は口を開く。 「なんで僕が勉強を教えてると思う?」 「え?」  僕の口から現れた新たな問いに天奈は戸惑う。そりゃそうだ。こんな問題、試験範囲外だろうし。  すぐに僕は答えを示した。 「教えられるからだ」 「どういうこと?」 「やればできるようになるんだよ」  公式を理解する。法則を身につける。古語や英単語だって覚えればいい。  記憶力やスピードの差こそあれ、やれば誰だって獲得できる能力だ。 「それはできる人の意見だよ」 「ちがうな。できるようになるまでやった人の意見だ」 「私でも?」 「うん。十年かかるかもだけど」 「期末テスト間に合わないじゃん」 「スタートが遅れただけだろ」 「辛辣だなあ」    天奈は勉強を続けながら、まあ確かに十年勉強し続ければできるかもね、と笑った。  僕は頷いて同意を示す。
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