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5
静かな教室に手を叩くような音が聞こえた。
空は灰色の雲に覆われて、窓ガラスには透明な点がひとつ、またひとつと数を増やしていく。
僕は彼女のノートを指差した。
「ここ間違ってる」
「え、うそ!」
天奈は「うわーほんとだ」とあわてて僕の指摘した場所を消しゴムで擦る。彼女の間違いが消しカスになって机に転がった。
再びシャーペンを構えた彼女を眺めながら僕は口を開く。
「なんで僕が勉強を教えてると思う?」
「え?」
僕の口から現れた新たな問いに天奈は戸惑う。そりゃそうだ。こんな問題、試験範囲外だろうし。
すぐに僕は答えを示した。
「教えられるからだ」
「どういうこと?」
「やればできるようになるんだよ」
公式を理解する。法則を身につける。古語や英単語だって覚えればいい。
記憶力やスピードの差こそあれ、やれば誰だって獲得できる能力だ。
「それはできる人の意見だよ」
「ちがうな。できるようになるまでやった人の意見だ」
「私でも?」
「うん。十年かかるかもだけど」
「期末テスト間に合わないじゃん」
「スタートが遅れただけだろ」
「辛辣だなあ」
天奈は勉強を続けながら、まあ確かに十年勉強し続ければできるかもね、と笑った。
僕は頷いて同意を示す。
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