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「けど、百年やっても僕は五センチ浮けないよ」  天奈は笑顔を収めた。ペンを止めて、こちらを見る。   「確かに雨上がりに浮けても人生の役には立たないかもしれない」 「ちょっと」 「しかも五センチとか微妙すぎて評価されにくい」 「泣きそう」 「でも僕には一生かけても手に入らない」  役に立たないからって無駄なわけじゃない。  誰にも真似できない彼女だけの能力は、勉強くらいしか取り柄のない僕にはとても価値のあるものに見える。  自分じゃわからないなら僕が伝えよう。一度で伝わらなければ何度でも。 「ここ間違ってる」  僕は彼女に向けて指を差す。本当は自分でもわかってるはずだ。  だって雨上がりの君は、あんなに楽しそうに笑ってたんだから。 「天奈さんが羨ましいよ。すごい特技があって」  いつの間にか窓を叩く音が止まっていた。  窓ガラスが淡く光って、静かな教室を真っ白に染め上げる。 「……五時だね」  彼女が小さく呟いた。ほぼ同時にチャイムが鳴り響く。  外を眺めて、嬉しそうに頬を持ち上げた。 「雨も上がったし、帰ろっか」
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