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「はい、今日のお礼」  正門を出て少し歩いたところで、天奈は飴玉を僕に差し出した。  雨はすっかり上がり、空には雲がまばらに浮いている。さっきまでの雨でみんな急いで家に帰ったのか、道路には誰もいなかった。  受け取った飴のパッケージを見ると『マスカットケーキプリン味』とある。 「おいしいものとおいしいものを合わせてもおいしくなるとは限らないって習わなかった?」 「でも気になるでしょ」 「気になりすぎる」 「じゃあ今食べてほしいな」    そんなことを言われたのは初めてだったので戸惑いつつも僕は飴玉を口に入れた。  とろけるような甘さと爽やかな風味が口内に広がる。案外悪くない。  天奈もパリッと包装を破って自分の飴を口に入れた。  その瞬間、彼女の身長が僕の身長と並ぶ。 「いつ見てもすごい」 「ふふふ」  嬉しそうに笑いながら天奈はスキップをした。  濡れたアスファルトや塀に反射した光が彼女を飾り付ける。いつも数式を書いていた手も輝きの中でひらひらと舞っていた。  その光景に僕はつい見惚れてしまう。 「上利くん」  一歩、二歩と前に出た天奈は振り返って僕の名前を呼んだ。  にこりと微笑みを浮かべて、からっぽの手のひらを僕に差し出す。 「一緒に踊ろ?」
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