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 吸い寄せられるように僕は自然と彼女の手を取っていた。  ふわり、と不思議な感触を足裏に感じる。  まるで厚みのあるカーペットの上に立っているような弾力と、少しだけ高くなった目線。 「え、浮いてる?」 「うん。私に触ってれば誰でも浮けるんだよ。飴舐めてる間だけ」 「知らなかった」 「秘密にしてたからね」 「国に狙われるから?」 「ううん、そうじゃなくて」  彼女のやわらかい手に少し力が入る。  光の粒を詰め込んだ瞳がこちらを向いていた。   一瞬、息が止まる。 「大事な人にしか教えたくないことって、あるでしょ?」  そう告げて天奈はすぐに目を逸らした。  僕は呼吸を取り戻す。鼓動はすぐには戻らないけれど。  「で、どんな感じ? はじめてのお姫様体験は」 「え、あーそうだな」  高さ五センチの煌めくステージの上で、僕たちは思うままにステップを踏む。  マスカットの香りも、繋いだ手から伝わる温度も、甘くて優しい。  どう言葉にすればうまく伝わるのかわからなくて僕は感じたことを素直に口にした。 「すごく、楽しい」  よかった、と天奈は満面の笑みを浮かべた。  二人で小さくジャンプして水たまりの上に着地する。不細工なターンで転びそうになる僕を見て、彼女はまた笑った。体勢を整えながら僕も笑う。繋いだ手は離さない。  口の中を転がる甘さが溶けてなくなるまで、僕たちは瞬く光の上で踊り続けた。 (了)
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