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「あれ? なんかおかしい気がする」
天奈は導き出した答えを見つめて首を傾げる。
僕は「ここ間違ってる」と途中式を指差した。彼女はすぐに「あ、そっか」と理解したらしく式を書き直す。今度は正しい。
一度間違えたほうが身になりやすい、というのが僕の持論だ。
「なるほどねえ。こうすればいいんだ」
「わかったら楽しくない?」
「楽しいよ。でもそのためには勉強しなきゃだめっていう」
「そんなことばっかだな」
好きを手に入れるには嫌いを受け入れなきゃいけない。ジレンマ。
今まで勉強に対してそんな風に考えたことがなかった。
「好き嫌いの感覚が鋭いんだな、天奈さんって」
「まあ普通そんなこと思わないもんね」
「だから普通とちがうことができるのか」
かもね、と天奈は笑った。
チャイムが鳴る。ちらりと壁の時計を見ると十七時を指していた。
この勉強会は放課後の一時間という約束なので、いつもこのチャイムを終了の合図にしている。
彼女は床に置いたカバンに教科書をしまう。
そして中から個包装された飴玉を取り出した。
「はい、今日のお礼」
手のひらの上でころんと転がるパッケージには『ザッハトルテ味』と書いてある。だからどこに売ってんだ。
礼を言って受け取ると天奈はにっこりと笑った。
彼女は飴が好きで、勉強が嫌いで、雨上がりが好き。
僕がそれを知ったのは高校に入学して二ヶ月後のことだった。
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