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……あれ?
雨上がりの下校路で前を歩いていた天奈を追い越したとき、ふと違和感を感じた。
なにかが違う。
自分の感覚がそう主張する。僕は原因に思いを巡らせた。
それがいつもより埋まった身長差だと気付いて振り返ると「あーバレちゃった?」と彼女は苦笑いを浮かべながら口の中で飴玉を転がした。
「人前では見せないようにしてたんだけど」
「なのになんで」
「新発売の飴の味が気になっちゃって」
「なんだそりゃ」
「トムヤムクン味だよ?」
「いや気になるけども」
あの独特な酸味と辛味が絶妙に調和した味をひとつの飴玉にどう再現するというのか。
確かに気になって仕方ないが、それよりももっと気になることが目の前にある。
「え、浮いてる?」
「うん、浮いてる」
悪戯が見つかったように天奈ははにかんだ。
いやもしかすると僕の顔が面白かっただけかもしれない。クラスメイトが浮いているという理解が及ばない状況に、自分がどんな顔をしているかまったく意識していなかった。
「えっと、どうやって?」
「それは私にもよくわかんない。でも、雨上がりの道路が綺麗だったから」
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