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「どこかに敵の気配を感じる……!」 「自分のミスのこと敵って呼んでる?」 「うーん、どこだろ。わかんないけど、なんか道を間違えてる気がする」  彼女はシャーペンをこめかみに当てながら自分の書いた式を目で読み返している。  どうやら問題を解く過程に違和感を覚えたらしい。その感覚が芽生えたことは大きな成長だと思う。 「僕はこのあたりが怪しいと思う」 「このへん?」  僕が指で囲ったあたりをじっくり確認した天奈は「え……あ、いたー!」と消しゴムで敵を殲滅した。  間違っていた数式を修正して、彼女は再び正答への道を歩み始める。 「お姫様にも先生とかいたのかなあ」 「そりゃいただろ。公務員かは知らんけど」 「だよね。こんなん一人じゃ無理だもん」  ふと思い出したように天奈はペンを止めてこちらを見た。  カバンの中に手を突っ込んで中身を漁る。 「ほんとありがとね、先生」  彼女はにこりと微笑む。目の前に差し出された手のひらの上には個包装のキャンディがちょこんと乗っていた。  僕はそれを受け取る。  口の中でつぶやいた「どういたしまして」はたぶん声になっていなかった。
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