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「私は雨が止んだらちょっと浮けるだけ。アスファルトの上で飴舐めてるとき限定で」 「十分だろ」 「全然だよ。昔は私も自分は特別なんだーって思ってた。おとぎ話の主人公になった気分だったし、もしこのことがバレたら国に捕まって実験動物にされちゃうかもとか考えてた」 「世界観がカオスだな」 「けど、さすがにこの歳になると気付いてくるよね」  カチカチ、とシャーペンの背を押して芯を出した。  ゆっくりと数式の続きを書き始める。 「私は別に特別じゃない。足が速い人とか耳が良い人とかと変わんない。上利くんだって普通の人より勉強ができるでしょ? それと一緒。しかも私の場合は役にも立たないし」 「役に立たない?」 「うん」  天奈は小さく頷いた。髪の毛の先端が机を撫でる。 「五センチ浮けるからって大学に受かるわけでも就職に有利ってわけでもないでしょ。それなら足が速かったり耳が良かったりするほうがまだ可能性あるよ。スポーツや音楽で特待とか取れるかも」  するすると流れてくる言葉を聞いて、なんだか似合わないなと僕は思った。  表情も台詞もいつもの彼女に似つかわしくない気がする。 人間だし違った一面もあるものなのか。僕の勝手なイメージを押し付けてるだけかもしれない。 「だから私は勉強しなきゃいけない」  彼女はノートの罫線に沿って数字や記号を書き連ねていく。  答えを求めて足掻くように式を繋げる。途中に間違いがあると気付かずに。 「上利くんが羨ましいよ。すごい特技があって」
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