ヒラメと太陽

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 雪の降る朝だった。突然体が動かなくなり、上司からしばらく会社を休めと言われた。  あれからどれだけの月日が経ったのか……。気が付けば今日は四十度に迫る猛暑らしい。朝起きて二度寝して、飯食って昼寝して、サブスクのアニメを観て酒飲んで気絶して……。でっぷりと浮き輪のように日々成長し続ける内臓脂肪を除けば、毎日が再放送。同じ事の繰り返し。  昔は釣り、飲み会、ゲーム、ドラマ、アニメ、何をしてもそれなりに楽しかったはずなのに、今はすっかりくたびれたチューインガムのように、何をしても無味乾燥。目の前のテーブルには、役目を終えたウイスキーの空き瓶達が、新たな仲間を待ちながら無造作に横たわる。  週に一度更新されるサブスクのアニメだけが、曜日感覚を保つ手がかりとなっていた。もっとも、それを楽しむ感覚もいつしか麻痺し、ただただモニターに無表情な顔を向ける儀式と化していた。眼前には、なぜかモノクロの世界が広がっていた。  すっかり逆転していた昼夜が再び逆転し、図らずも太陽のある生活に戻った。主治医から、趣味を楽しむ事を勧められた。外の光を浴びる事は体に良いらしい。重い腰を上げるのに一ヶ月かかったが、釣りに行く事にした。
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