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時間になると玄関の呼び出し音が鳴った。いつもの三人が来た。
「お前の好きな日本酒持ってきた!」
「でもな、三人とも日本酒か! 手土産が被るなんて、笑えるな!」
「ちょっと待てよ! 銘柄まで同じ!? 嘘だろ!? おい、お前の好きな銘柄だからって三本ともひとりで飲むなよ!」
まるで元気か確認するように、少し強く背中を叩かれた。全員が全く同じ手土産を持参した事に、皆笑った。
三人とも自分が休職中という事は知っている。もちろん、離婚の事も。それでもいつも通りに振る舞ってくれている事が嬉しく、笑って、少し泣いた。
釣り上げたヒラメで料理を作った。刺身に煮付け、ムニエルにアクアパッツァ。難しいポワレにも挑戦してみた。毎度ながら和洋折衷でバランスが悪いメニューになるが、皆喜んで食べてくれた。
酒が美味かった。自分の好きな銘柄の日本酒だから、というだけではない。暗いどん底で飲んでいた酒とは違う。そこには友がいて、光があって、希望があった。それが日本酒のフレッシュな吟醸香を一段と引き立てた。
軽やかで甘いその飲み口は、自身を饒舌にさせ、今後の展望を語らせた。
「は!? 人生終わったからもう一回やり直したい!?」
友人のひとりは驚きとも呆れとも取れる様子で聞き返した。
「やり直すも何も、そもそも一度終わったの?」
その言葉にハッとした。確かにそうだ。いつ自分の人生は終わったのだろうか。勝手に「終わった」と線引きしていたのは紛れもない自分自身だったのだ。
どん底は見た。しかしそれは「終わった」事を意味しない。「もう一回」やり直すも何も、一度だって同じ「一回」はない。毎回が新たな「一回」なのだ。
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