雨は上がったけれど

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 ぱしゃんっ。  あぁ、泥の水たまりを避けきれなかった。  お気に入りのワンピースに水飛沫が跳ねあがって、染みとなっている。  近道だからって公園を抜けるんじゃなかった。  帰ってすぐに洗濯したら落ちるかなぁ。  ……あれ? 雨、止んでる?  さっきまで、ポタポタッと傘に伝わっていた振動が、気がついたら感じなくなっていた。  傘の角度を変えて見上げれば、灰色の空に少し光がさしている。 「あ、雨が止んだよ」  手早く自分の傘をまとめて、隣を歩いていた娘の傘を畳もうと手を伸ばした。 「いやーっ! ちーちゃん、まだ、さすのーっ!」  傘の柄をぎゅうっと握りしめて離そうとしない。 「でも、ちーちゃん。雨あがったよ。傘も重たいでしょ?」  一人でさせる様になったといってもまだ五歳。上手くさせなくてちょっとフラフラしたりしている。 「や、なのーっ。だって、やっとさせたんだもんっ」  ……そっか。  今さしているイチゴ柄の傘は、ちーちゃんに、はじめて買ってあげた傘。  それまでレインコートだったけど、まわりのお友達が傘をつかいはじめたから、自分も持ちたいとおねだりされたのだ。  そういえば買ってからはじめての雨だった。 「傘、たのしいの?」 「うんっ! おねえさんになったみたいだし、ぱらぱらって、音がするのっ」  笑顔でクルクルと傘をまわすちーちゃん。  そっか。ママは雨が上がって嬉しいけど、ちーちゃんはまだ雨が降っていて欲しいんだね。  いつもならお気に入りのワンピースが汚れたら泣いちゃうのに、今日はそれが気にならないくらい、傘をさしているのが楽しいんだ。 「じゃあ、もうちょっとだけ、傘さしていようか」 「うんっ!」  傘をさしながらだと、手を繋げないけど、揺れる傘からちーちゃんが楽しんでいるのが伝わってきた。  ワンピースは、帰ってからちゃんと染み抜きするからね。
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