1人が本棚に入れています
本棚に追加
海を超えて忍び寄る冥府の住人
赤い飾り袋を拾った者は、すぐ、陰で監視している家族に拉致されると聞いていたが、地面に落ちた赤い袋は、そのまま、地面に吸収されるように消えてしまい、何事もなく桂華達は、帰りの便が待つ空港に辿り着くのだった。何事もなくとは、本人達が、そう思い込んでいるだけで、帰りのバスの渋滞が、少し、早く出たら衝突したであろうオーバーランしてきたトラックと乗用車の事故だっとか、バスが空港に着いた途端、エンジンルームから出火したとか、そんな事は、気が付かないで、過ごしていた。だから、変わりなく、飛行機に乗り、20分遅れて、離陸した時も、
「ついていない」
と他の乗客の呟きを最もだと、うなづいていた。桂華は、本来なら、T国に足止めを喰らう筈だったが、不思議な幸運に恵まれ、危機を脱していた。あの時、あの赤い飾り袋は、地上で、消える事なんて、あり得ないのに。それでも、しっかり、冥府の求婚者は、桂華の側まで、近寄っていた。
「少し、寝ていれば、着くわよね」
十分に食べて、飲んで、歩いたものだから、座るとすぐ、眠気に襲われていた。
「寝るとさ・・・」
この時期になると、夢の中に訪れる雪景色。
「逢いたい人に、夢の中で、逢える?」
からかわれて、首を振る。
「まさかよね・・・こんな変わり物の私達」
「変わり者?」
桂華は、笑った。
「そうね。私達。」
遺跡や考古学が好きな女子はいない。古い家柄のせいなのか、代々、世間でいう変わり者が多いのは、事実だ。今回の観光旅行も、他の女子達と違って、遺跡巡りだった。他の女子達は、南の島に遊びにいったと言うのに。
「古い慣習の残る地域の遺跡なんて、ゾクゾクするわね」
同じ感性の友人が居てくれて、頼もしい。桂華は、すぐ眠りに落ちた。夢の中では、やはり、雪が止まる事なく、降り続いていた。空を見上げると、自分を中心に大きな雪の花びらが開いたり、閉じたりしている。遥か遠くには、小さな人影が見える。
「誰?」
目を凝らしてゆっくりと見ようとするが、自分の記憶が曖昧なのか、よく見えない。
「あれは・・・」
小さく見えたのは、藁を被った子供の姿だった。頬は、赤くひび割れて赤い鼻からは、鼻水が垂れていた。
「久しぶりだな」
少年は、振り向き、ゆっくりと笑った。
「あなたは?」
声をかけようとした時、悲鳴が頭の中で、響いた。少年は、ハッとした顔になり、桂華は、目が覚めて、現状を知ることになる。
最初のコメントを投稿しよう!