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怪奇と乙女と噂話
帰りの飛行機の中での、話はあっという間にゼミの間で広がっていた。
「希空?」
少し、噂話好きが希空の欠点。飛行機の中で、大声を出した青年は、精神障害があったとのことで、今回、罪に問われる事はなさそうだった。以前から、問題を起こしてばかりいるので、移動中は、保護者が付き添うはずだったが、体調を崩したとかで、同乗できなくなっていた。普通なら、ここで、取りやめるのが、通常の人なんだろうけど、精神障害のあの青年は、1人でも、行くと言って聞かなかったそうだ。周りも、彼の熱意に負けて、1人での搭乗を許したそうだが、今は、大きな騒ぎになり、反省しているそうだ。結局、大きな怪我人も出なかったのは、あの女性のおかげだが、
「連れて帰ったわね」
飛行機から、降りる時に、すれ違いざまに言った台詞が気になっていた。
「え?」
もう一度、よく聞こうと振り返った時に、女性の姿は、なかった。
「連れて帰ってきた?」
とは?桂華の耳には、あの女性の声だけが残っている。そんな事より、気になる事は、もう一つ、T国から帰って以来、また、一つ、目に付く事が起きていた。
「お口、ばってん」
桂華は、希空の口を塞いだ。
「何でも、かんでも、話さないで」
希空は、舌先を少しだけ出して笑った。
「ごめん。ごめん。何か、変な事が続いていてさー」
「笑えない」
無邪気に笑う希空には、伝えられない。いつもと、違う事が起きている。
「あのさ。希空は、変わりないの?」
「何が?」
希空と桂華は、県立の図書館に居た。レポートをまとめる為、資料を持ち寄り、提出する研究の取りまとめを自宅ではなく、図書館を選んでいた。そもそも、自宅でも、すむ用事を図書館に選んだ理由は、希空にあった。
「受付のバイト君が滅茶、好みでさー」
らしい。いつも、単純な動機に振り回される。
「で。」
「ごめん」
図書館にいる。まぁ・・・自宅に、居たら、見れない代物が見れたから、いいのだが。
「怖い顔してる?」
「いいえ」
希空は、首を振った。この能力があるから、遠い日に、絵画に閉じ込められた守護神を見つける事ができた。山の神。雪の中に消えた山の神は、あれから、どうしたのか?自分は、今、この図書館であらぬ者達を見ている。
「県立で、古いからかなー」
テーブルに座る、膝上に、毛の長い生き物が、両足を折り、こちらに顔を向けていた。左目は、見えないのか、硬く閉じ、片目は、血の様に赤い。
「希空?足とか、お腹は、なんでもない?」
「全然!」
希空には、見えていない。また、妖物が現れ始めている。こちらと目のあった妖物は、威嚇するように、口を開けた。耳まで、裂けた口からは、血の匂いがした。
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