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 去年の秋、あたしはアルバイト中に意識がなくなって倒れた。  救急搬送されて集中治療室で意識が戻ったら左半身が麻痺していた。正確には左上腕部から先と左大腿部から先が動かないらしい。病院では若年性の脳梗塞だとかの脳疾患を疑ったけど精密検査の結果では異常は見当たらなかった。最終的には原因不明の心因性によるものではないかと診断された。  お父はオロオロしてしばらく仕事に手がつかなくなっていたが、あたしは割に平気だった。自分の身体だと思わないようにした。それに心因性だから突然治るかもしれないしって思った。本当は内心、罰が当たったんだって思いながら。  すぐにあたしは車椅子でひとりで移動できるようになり、着替えやお風呂、トイレなんかも介護なしにできるようになった。そして週に1回、市の中央病院に診察を受けに行く。最初は仕事を休んだお父が連れて行ってくれたけど、いつまでも仕事を休むわけにもいかない。お父が前に働いていたタクシー会社の社長が気にかけてくれて、毎回タクシー送迎を優遇してくれる。  今日来た運転手は顔なじみのおじさんだった。穏やかで余計なことを言わない優しい運転手さん。でも毎回のようにあたしが「右側に乗ります」と告げるとちょっと不思議そうな顔をする。運転手さんにしても、お客は大体後ろの左側に乗ってもらうみたいで、自分の真後ろにぴったり付くようにいられるのはちょっと居心地悪いみたい。でもしょうがない。あたしは右側の海を見るのが好きだから、これは譲れない。  今日もずっと雨が降っている。重いぬいぐるみの手のような自分の左手を両腿の上に置いて、またあたしは車窓に釘付けになる。
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