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永遠に餓えつづける母親は他力本願をやめられない
義父が入院することになり、義母と病院に同行。
夫と私、後部座席に義母が乗り、病院に向かっていたところ。
「武文さんの車は、もっと静かにすーっと走るのに」
前ぶれない義母の呟いた一言に、わたしは耳を疑った。
武文さんとは、夫の姉の旦那。
会社の社長だから、そりゃあ乗り心地のいい高級車を所有しているが、それにしたって・・・。
思わず夫を見るも、遠い目をして口を閉じたまま。
それ以上、義母がいちゃもんをつけなかったので、気まずいながらもスルーして、夫と二人きりになってから事情を聞いた。
ため息を吐いて、夫曰く「俺が子供のころから、ああなんだ」と。
「だれかと比べて、相手を過小評価する。
やめてくれって頼んでも『相手のために忠告している』って聞く耳を持たなくてね」
結婚して間もないし、夫との実家とは、まだあまり交流がなかったので知らなかったが、なかなか義母は難儀な人らしい。
そのあと、私にも牙をむいてきたもので。
突然、連絡もなしに私たちの家にきたときのこと。
夫が不在で慌てながらも、なんとかお菓子とお茶でおもてなし。
で、急な訪問をわるびれることなく義母はお菓子を食べて一言。
「沙也加がだしてくれるお菓子もお茶も、もっと高級なものなのに」
沙也加とは、夫の姉。
かちんときた私は、負けん気が強い性格なのもあって黙っていられず。
「そういえば、沙也加さんのお姑さんは元社長夫人とあって気品あふれる方で羨ましいですよね。
そうやって服にお菓子やお茶をこぼしたりしませんし」
義母は視線を落として、だまりこみ、どうやら反撃が効いたらしい。
以降、口数が少なくなり、でも帰らずに、泊まっていくことに。
その夜、物音がしたようで、ふと目を覚まし、台所に行ってみると。
義母が蛇口から流れる水を、顔を逆さにしてがぶ飲みしていた。
「ちょっと、お母さん!」と引き離そうとするも、蛇口をつかみ、泣き叫んで。
「止めないでよ!いくら飲んでも喉が乾くの!
ああ、ああ、飢えてしかたない!もっともっと飲まなきゃ、とても、この飢えには耐えられない!」
翌日、義母を駅まで送ってから、夫に昨晩のことを話すと、達観したように、でも、寂しげに告げたものだ。
「いくら人に励んでもらっても、自分が満たされることはない。
自分を満たしてあげられるのは、やっぱり自分でしかないんだろうよ」
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