軽自動車差別主義者

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軽自動車差別主義者

久しぶりに地元に帰り、友人と食事をしたら、あるこわい話を聞かされた。 なんでも町一番の大通りで、乱暴に割りこむ車がいるとか。 それ自体、あおり運転が社会問題になっている今、珍しくはないが、三つの点 で奇妙なところがあると。 一点目は、毎日、その車が走って、多くの人が目撃していること。 二点目は、軽自動車に対してだけ、割りこむこと。 そして三点目は、ドライブレコーダーや監視カメラ、スマホには暴走車が写 らないこと。 「だから幽霊車じゃないかって、いわれてんだ」と語るのを話半分に聞き、たしかめるためではなく、べつに用があって例の大通りを走行したところ。 道が混んで車が並ぶなか、俺が運転する軽自動車のまえに、赤いスポーツカーが割りこみ。 「すこし擦ったんじゃないか?」とぎょっとしたほど強引だったもので。 友人の話どおり、そのあとも軽自動車に対してだけ、接触しんばかりに割りこみを繰りかえし、どんどん離れていった。 が、交差点に行きつくまえに赤信号が点灯。 追い越しても、結局、信号でつかまって、たいした時間短縮になんないんだよなあ。 少少「ざまあ」と思いつつ、俺もブレーキを踏もうとしたら。 赤いスポーツカーのほうは停まるどころか、加速して交差点へ侵入。 信号が変わったばかりで、突っきれるかと思ったが、ふとサイレンの音が耳につき、間もなく、交差点に救急車が出現。 猛スピードで交差点にはいって、赤いスポーツカーを吹っとばした。 そのまま速度を落とさず、救急車は走り去って、スポーツカーは電柱にぶつかって沈黙。 大事故のはずが、なにごともなかったように車は交差点を渡っていき、信号待ちで停まっている車から人がでてくることもない。 そのうち青信号になって、流れに乗って俺の軽自動車も走りだしたとはいえ、そりゃあ、スポーツカーを放っておけず。 交差点を過ぎてすこしのところ、飲食店の駐車場に車をおいて見にいった。 ひしゃげたスポーツカーのなかで男は血だらけながら意識を保ち、俺に気づいたとたん睨みつけ叫んだもので。 「俺は軽自動車を車だと認めない! 軽に乗っている人間も人間だと認めないし、死ねばいい!」 軽自動車になんの恨みがあるというのか、意味不明な罵詈雑言を浴びせたが、急に青ざめて、うずくまってしまい。 なにごとかと思えば、背後から聞こえるサイレンの音。 振りかえって目にはいったのは、突進してくる救急車。 その運転席には、血まみれの裸の赤ちゃんを抱えた女性が。 次の瞬間、救急車が俺たちめがけて突っこんできて、それからどれくらい経ったやら目を覚ましたのは病院。 見舞にきた友人に聞くも、やはり交差点で事故は起こっていないらしい。 ただ、三年前に悲惨な事故があったという。 軽自動車を煽りまくって暴走していたスポーツカーがあの交差点で救急車と衝突し、全員が死亡。 救急車には妊婦が乗っていたとのことだ。
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