汗っかきの彼から滴るしずくは万人を救う

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汗っかきの彼から滴るしずくは万人を救う

俺のクラスメイト、清水は汗っかきだ。 夏はバケツの水をかぶったようだし、冬も大粒の滴が滴ってやまない。 ただ、着替えたり、制汗剤をつけたり、まめに対処をしているから不潔な印象はなく、ほとんど匂いもせず。 なので、まわりは気にしなかったのが、一人だけ、しつこく絡むやつが。 同じくクラスメイトの篠田で、なにかと清水を冷かしたもので。 「うっわあ!清水の汗が肌についたあ! やべえ、俺も一生、汗まみれになるかも! 気をつけろ!清水の汗がつくと、ばい菌が移るぞお!」 まわりは呆れて、とりあわず「うるさい」「やめろよ」と注意しても聞かないので、放置していたのだが。 体育で長距離走をしていたとき。 目眩がして地面に膝をついたら「だいじょうぶ?」と清水が手を差し伸べた。 その手をとろうとしたら「触るんじゃない!」と叩き落とされ、見あげれば、血相を変えた篠田が。 「あれほど、ばい菌が移るって教えただろうが! 触ったら最後、清水のような、けがらわしい体になるぞ!」 頭がかっとなり、目眩はどこへやら。 奮然と立ちあがり「いい加減にしろ!」と篠田に迫ろうとしたところ。 「ぼくは平気だから!」と清水が立ちふさがり、まさかの篠田を擁護。 そうするうちに教師や生徒たちがきて、舌打ちした篠田は去り、うやむやに。 「弱みでも、にぎられているのか?」ともやもやしつつ、なんとなく二人に問いつめることはできず。 体育の一件を引きずったまま下校することになったものを、帰宅途中で忘れ物に気づきリターン。 教室付近にきたら、声が聞こえて。 そう、清水と篠田だ。 「まったく体育のときの、きみの行いはいただけないな。 すこし触られたくらいで、神に授けられし、この奇跡の体はけがれはしないよ」 「も、申し訳ありません!どうか、お許しを! もう、あんな愚行をしませんから、どうか、どうか・・・!」 「いいでしょう。許しましょう。 顔を上げなさい。 さあ、聖水を飲んで身も心も清めなさい」 おそるおそるドアから教室を覗くと、清水の手から滴る汗が、篠田の開けた口に落ちていったもので。 それから間もなく清水が転校して、いろいろと判明。 清水の親がサラリーマンと専業主婦というのは嘘で、新興宗教を営む一家だったらしい。 その新興宗教の売り文句について、父親は「我が息子から滲みでる聖水を飲めば、どんな病気も治る!」と豪語。 滲みでる聖水とは、汗のことなのか・・・。 あのとき、聖水という名の汗を飲んだ篠田は、幼いころから白血病を患い、ずっと入院していたという。 完治して学校に通っていたはずが、清水が転校したと同時に、また入院生活に逆もどり。 といって、病気が再発したのではなく、精神病棟にはいったとの噂だ。
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