その日

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その日

ある時突然、過去に立ち返る事が出来た。一日も終盤、帰宅後の事だった。自室で煙草を吸いながら、窓から射し込む緋色の光に照らされていた。いつもなら、すればする程窒息感に苛まれる呼吸なのに、不思議と楽になる。それは初めての感覚であり、”救済"そのものだった。そして、「何故か温かい」感覚の正体でもあったのだ。例えば、白黒付けなくても良くなった。また例えば”努力"をする必要などないのだと悟った。自分ありきの他人なのだし、誰よりも味方であるべきであったと。また、怒りの感情を無視して生きてきた事、卑屈や自虐を盾にしていた事に気づく事が出来た。情けない、何もない、まるで犯罪者の様な自分を世に晒す事が恐かった。 思考の歪みとはこうも何年も時を停めてしまうものらしい。机の上にはやりかけの仕事、描きかけの絵に片付けかけの部屋。許せた訳でもなく結論が出せた訳でもない今日を、中途半端なままで生きられた初めての日として大切に閉まっている。
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