生き別れの弟に

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 母は再婚をしていて、名字が変わっている。  ここだ。番地も合っているし、高木と書かれた表札もある。  僕は、緊張からか暑さからかわからない汗で湿った指で、インターフォンを鳴らした。 「はい」  モニターに、懐かしい母の顔が覗く。 「母さん、僕だよ」 「えっ!? 昌哉?」 「そう。突然来てごめん」 「ちょっと待ってて。俊哉? としやー?」  そのすぐ後に玄関のドアが開くと、母と俊哉の二人が僕を出迎えてくれた。良かった。二人共出かけていなかった。 「昌哉……」  俊哉は僕より背が大きくなったみたいだ。 「驚いただろ? 久しぶり」 「……今から、そっちに行く予定だったんだ」 「どうして?」 「どうしてって……」 「昌哉、あなたは大丈夫なの?」  大丈夫かって? 父さんから受けている暴力のことを言っているのか? 「さっき電話で聞いたばかりなの。あなた、何時に家を出たの?」 「朝だよ」 「あなたは大丈夫だったのね」 「そんなことよりも俊哉、大きくなったな」 「……ああ」 「身体もガッシリしてる。もしかして野球部?」 「そうだよ」 「凄いな。父さんに知らせないとだな」  二人は答えない。 「俊哉も父さんに会いたかっただろう?」 「ああ」  やっぱり父さんっ子だ。来てよかった。 「父さんによく、頬をくっつけて褒めてもらっていたじゃないか」  僕がそう言うと、母さんは口元を抑えてかがみ込んだ。離婚したことを嘆いているのか? 「もう、そんなことをされても喜ぶ歳じゃないけど、父さんには褒めてもらいたいだろう?」 「……そうだな」  そう言った俊哉の目に涙が浮かんでいた。  そうかそうか、僕も母さんと俊哉に会えて嬉しい。それと同じくらい俊哉も父さんに会いたいと思っていたんだ。  そこで僕は、すぐに会わせてあげることにした。
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