青のヘッドフォン

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 人生ってマジでクソゲーじゃん。もう辞めてやろうかな、人生。学校より人生のほうが簡単に辞められそうだもん。退学届のサインを親に書かせるより、元気よくホームに滑り込んできた電車に熱い抱擁を交わすほうが分かりやすいじゃん。ついでにその場に居合わせた全員の脳みそに、現役女子高生の全自動解剖シーンというプレミア映像を焼き付けてやることだってできる。きっとネットを探しても見つけられないし、女の子がお金欲しさにキモいおっさんの前で股開いてる動画より絶対希少だろ。  視線は斜め下40度あたりをにらみながら、あたしはローファーで駅のコンコースを切りつけて歩く。電車を降りて改札を出るとき、こんなにやさぐれていても、改札機はあたしを通せんぼしなかった。もう人間じゃなくて改札機と付き合おうかなって思ったけど、あいつはICカードを読むたび、ぴっぴぴぴっぴっぴっぴ。は? 他の女にタッチされて嬉しそうに鳴いてんじゃねえよ、くそが。  その耳障りな音も手伝い、あたしは荒れに荒れていた。背後ではぴっぴぴっぴっぴ、ぴんぽーん、もう一度タッチしてください。あたしも言えばよかった。最後にもう一度キスしてください、って。まあ言ったところで、してくれたかも怪しいけど。  雑音を耳に入れたくなくて、あたしは鞄からヘッドフォンを引っ張り出す。スイッチを入れた時にピポッとか音が鳴るのは本当に今だけは勘弁してほしかったけど、それさえやり過ごせば、漏れ聞こえる駅の喧騒が、すうっと遠くへ離れていった。  ノイズキャンセリング機能ってすごい。あたしは誰かとヤったら青少年なんちゃら条例に触れる年齢だけど、ノイズキャンセリング機能を考えた人にはこの身体をひらいてあげてもいいかな。それくらい助かった。  このヘッドフォンが、あたしを振った男からもらったもの、ということを除けば。
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