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――数日前。
「気をつけろよ」
隣のデスクでパソコンを使って資料作りをしていた同僚が、声を落として忠告してくる。
同僚が心配するのは、俺の心の問題らしい。
何故かというと、以前、うちの会社にいたエリート社員が失踪したからだという。
それも一人や二人ではないらしい。
成績が良い真面目な社員ほど、営業ノルマを過度に超えて期待に応えようとしたり、金額の大きな案件によるプレッシャーに耐えかねて心を壊す。
不動産会社に勤める俺は営業成績でトップを走り続け、来月から主任昇格することが朝礼で発表された。
二十代での主任昇格は異例の速さらしい。
これから俺は今までより大きな仕事を任されるようになる。
同僚は、失踪した過去のエリート社員と俺を照らし合わせているのだろう。
余計なお世話だ。
俺を過去の脱落者と一緒にするな。
俺は今までだって本気は出してない。
まだまだ余裕があるんだよ。
もっと上を目指せる選ばれた人種なんだ。
お前らとは出来が違う。
主任なんか通過点でしかない。
俺が心を壊して潰れるなんてありえない。
そんな事よりも、お前は自分の成績の心配でもしていろ、と思う。
「ああ。気遣い、ありがとうな。充分気を付けるよ」
心にもない模範解答で人間の格の違いを見せつけてやる。
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