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雨だ。僕の中で、決戦の銅鑼が鳴る。
ホームルーム終了。折りたたみ傘を握りしめ、僕は伊野さんの背中を追いかけた。
腰まで届く長い黒髪を背中に追いやりながら、伊野さんは鞄の中をごそごそと探っている。
僕は足を早めた。
傘かい?
傘が、必要なのかい?
傘なら僕が持ってるよ。せまい折りたたみ傘だけど。
僕の傘に入れば、いいんじゃ、ないのかい……?
「……あっ」
その時、さっと傘を差し出したのは、僕ではない別の男子だった。
「「僕の傘に入っていきなヨ」
「やだっ、いいの? 何だか悪いワ」
「いいのサ。せまい折りたたみ傘だから、ちょっと肩がくっついちゃうかもだけどネ……」」
「う、うるさいよ!」
あわてて僕は、うるさい小蝿のようなささやきを蹴散らした。
小蝿の主は、圭である。幼稚園の頃からずっと一緒の、僕の幼なじみ。
「惜しかったね。もうちょっとだったのに」
「いや別に、は? 何が?」
「んー? ま、いいや。実は僕も傘、忘れちゃって」
「またか。じゃあ一緒に帰るか」
「僕で申し訳ないね」
「うざ。うざいよ」
湿った空に黒い無地の傘が開く。
「あ、僕が持つよ」
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