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大粒の雨。僕の頭の中で、決戦の銅鑼が鳴り響く。
急げ。玄関口で、待機……!
と、思いきや。
「伊野さーん」
背後のほうで、女子がきゃっと色めきだった。
伊野さんはあわてて立ち上がり、教室を出て行く。
そして廊下には……背の高い男子の影があった。
「あちゃー」
うるさい、隣の小蝿。
校庭を見下ろすと、一つの傘が歩いていく。男子と女子。そのうちの一人は、多分伊野さんなんだろう。黒い傘は大きくて、まるで不必要な世界から二人を完全に守っているようだった。
「伊野さん、もしかして彼氏かなあ」
「……」
「彼氏だったとしたら、他の男子と相合傘は難しいかなあ。あーあ、がっかり」
「……」
「まあ、次があるさ。また夏はやってくるんだから」
「……ううっ。ばかやろうっ」
「おっと」
「僕は伊野さんの夏がほしいんだよ」
僕は半泣きだった。そして圭に笑われていた。
自分でも、何で、と思う。でも失恋の痛みって、何だ、こんな感じなのか。僕はなぜか幼稚園の時のことを思い出していた。
「ちえ先生いたじゃん」
「ちえ先生?」
「幼稚園の時の」
「ああ」
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