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その傘を手に取り、圭が空に掲げた。
「……ありがとう」
通常運転、男二人の相合傘。こんなはずじゃなかったのに。
しかも僕は、傘をさしてもらう側だ。おチビさんみたいで、ちょっとかっこ悪い。実際圭の方が背が高いし、自然な流れではあるのだけど。
僕より少し高い目線から、圭は見下ろした。
「また次があるよ。夏は長いんだから」
「うるさいよ」
とか言いながら、なんだかんだで気がついたら家に帰っていた。
始まりは、ある日の放課後だった。
その日も急な雨が降った。テスト期間中で、僕はたまたま学校の図書館で、出し忘れた提出物を片付けるべく猛勉強をしていたのだった。
まさかその図書館に、伊野さんもいたとは。成績のよい伊野さんは、多分普通にテスト勉強をしていたのだろう。図書館を出ようとすると、ドアの向こう側で一人たたずむ伊野さんがいたのである。
伊野さんの視線の先は、雨。土砂降りで、雷さえ鳴っている。
「伊野さん」
僕は伊野さんに声をかけた。なぜなら同じクラスだから。でも全然しゃべったことはなく、存在認識されているか分からないけど。
「あ、松本くん」
よかった。知られてた。
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