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「……もしかして、傘忘れた?」
「うん。止むかな」
僕は雨と伊野さんを見比べた。
ひどい雨だ。空全体が巨大なシャワーヘッドになったみたいな。
そして僕たちの学校のシャツは、薄い。
この雨に降られた場合、確実にシャツの下が透けてしまう。
僕の乳首が見えるのと、伊野さんのブ、ブラ……とかが見えるのと、どちらがましだろうか。
熟慮の挙句、僕はリュックから折りたたみ傘を取り出した。
「これ使って!」
「えっ」
「明日返してくれたらいいから!」
それで、僕はリュックを前に抱えて、雷雨の中へと走っていった。乳首が見えるといけなかったから。
そして翌日。
「松本くん」
伊野さんは僕の折りたたみ傘を信じられないくらいきれいにたたんで返してくれた。
「昨日、ありがとう」
「あ、う、うん」
「ありがとう」。そう言われただけなのに、急に体が熱くなる。伊野さんはクラスでも飛び抜けてかわいいだけあって、心なしかクラスメイトの視線も感じた。
そんな中、伊野さんは。
伊野さんときたら。
「相合傘でも、よかったのに」
という言葉を置いていったのだ。
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