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相合傘でもよかったのに。
相合傘でも。
相合傘でも。
ふぁんふぁんふぁんふぁーん。その言葉はハートのかたちの矢となって、僕の心に突き刺さった。
「う、ううっ」
「どうした、陸くんっ」
瀕死の友人のところへ、圭が駆け寄ってくる。
「まずい……僕は大変な失敗をしてしまったようだ」
「何がだ」
「それは、い、言えん……」
「何じゃそりゃ」
僕の失敗。
それは、伊野さんに傘を貸してしまったこと。
今なら分かる。あの時僕は、傘を貸すべきではなかった。僕がするべきことは、「僕の傘に、入らないかい?」と、傘をさしてあげることだったのだ。
もしもあの時そうしていれば、僕は伊野さんと一つの傘で歩くことができた。雨がましになったら、おしゃべりだってできたかもしれない。いつも図書館で勉強してるの? とか、好きな食べ物は何? とか。
そのチャンスを、僕はみすみす逃してしまったのだ。傘を貸してしまったことで。
そして、そのことを、僕はまさに今悔やんでいる。
なぜなのか。それは。
ハートの矢が刺さってしまったから。
刺さったその先は、心。
出来心、下心、恋心。
僕は伊野さんに恋しちゃったんだ。
多分。
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