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ポチは口をあーんして、指でひっぱって大きく開けた。綺麗な歯並びを見せたかったのではないとすぐに分かる。
だって、二本の鋭い牙が視界に飛び込んできたから。
「ほふはひんへんひゃあ……僕は人間じゃありません」
途中で気づいて指を口から外した。
「僕は人喰です」
赤い双眼がじっと私を見つめる。私も見つめ返した。一目見たときから、病室で会った男と同じ血の色の目を見て、人間ではないと気づいていたけど考えないようにしていた。
「うん」
「えっ、それだけですか!?」
ポチはあわあわしながら、『えっと、えっと他に何かないんですか……?』って聞いてきたけど
「何かって?」
「怖いとか、気持ち悪いとか……」
私はカーペットのひかれた床に胡坐で座り込んで、
「そう言われてもなー、べつになぁ」
私にとっては、人間が一番怖いし危険だから。
「食べられちゃうかもって思わないですか? こう、バクッと!」
ポチはバクッとの部分で、がおーと両手でポーズを取った。それが、
「ぷっ」
「な……なんですよ~もぉ~!」
不覚にも、ちょっと可愛いと思ってしまったのだ。
「君が私を食べる気だったら、私は今頃とっくに胃袋の中だよ」
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