なぜそんなことを

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なぜそんなことを

 その日、彼は商談のため、部下の若い女史を伴い、静かな和風の屋敷を訪れた。受付係の男が彼にいった。 「ここは刻印がなければ入れません。刻印はお持ちですか?」 「もちろん」と彼はいった。社のノートの最後のページに、黒い大きな刻印が押してある。彼はそれをはっきり覚えていた。 「ここへ入るには、刻印が必要ということだから」と彼は女史にいった。「例のノートを出してくれ」 「もちろんです、存じ上げております」と女史はいった。「しかし、ノートは捨てました」 「捨てた? なぜそんなことを!」 「捨てました」 「だからなぜそんなことを!」 「捨てました」 「だからなぜだ! なぜそんなことを!」
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