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龍二のそんな思い出もよそに聖菜は建物の裏口に来ていた。
普通の雑居ビル。元々は小売業者が入っていたが、今は空きビルになっている。
当然ながら裏口にも警察官が何人も警戒に当たっている。
「那由、この警察の包囲を突破するにはどうしたらいい?」
「式神を使って囮にし、警官の目を引きつけておいて、その間にビルの中に入る。これが今の聖菜に出来る精一杯かな」
「わかったわ。やってみる」
「ここからは時間との勝負だよ。警察の目を欺けるのはほんの僅かな時間だと思うから、素早く中に入らないと」
聖菜はかばんから式札を取り出すと術を唱える。
「涅槃(ねはん)より甦れ般若。我が命に従い警察官の目を欺けよ」
聖菜の術により現れた般若は人間の子供に変化して雑居ビルの入り口にいる警官の足元から中に入り込もうとする。
「こら、ここは危ないから離れなさい」
捕まえようとする警官の手を巧みにすり抜けながら逃げ回る般若。
「こら、待ちなさい。おい、その子を捕まえてくれ」
警官が般若を捕えようと目を離した隙に聖菜は雑居ビルの中に潜入した。
「般若、もういいよ。戻っておいで」
聖菜の呼びかけに般若は元の式札に戻り、警官たちは突然消えた子供に驚く。
「おい、子供はどこへ行った?」
「確かにここにいたよな?」
騒ぎを聞きつけた龍二が来てみると、警官たちの様子からすぐに聖菜の仕業だと察知した。
〔あのバカ。。あ、いや美里じゃなかったな。聖菜ちゃん、まさか中に入っていったんじゃ。。〕
「お前たち何をしている?」
「鈴村警部補。子供がうろついていたので捕まえようとここまで追ってきたら突然消えたんです」
〔やっぱりか〕
龍二は内心頭を抱えたが、表情には出さずにこの場を収める理由を考えた。
「このあたりには刀祢神社という古くからある神社があってな、子供の霊や悪霊がたまに悪さをすると聞いた事がある。お前たちが見たのもそれかも知れないな」
龍二の言葉に警官たちは半信半疑であった。
まあ、無理もない。自分でも無理矢理こじつけたのだからと龍二は思いながらも、警官たちに元の場所に戻るよう促す。
「あくまでもそういう都市伝説のような迷信があると言う事だ。子供の幻でも見たんだろう。さあ、この話は置いておいて早く持ち場に戻れ」
警官たちがまだ納得出来ない表情で持ち場に戻ると龍二は雑居ビルの中に聖菜がいると確信したが、今は機動隊が包囲して犯人説得に当たっている最中である。
いかに刑事といえども人質の命がかかっているためビルの中に勝手に入るわけにはいかなかった。
「聖菜ちゃん、無茶するなよ。君に何かあったら、俺は将来あの世とやらに行っても美里に会わす顔がない」
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