19人が本棚に入れています
本棚に追加
美里の後継者として 後編
「この嫌な感じは。。」
高校の授業が終わり、家に帰る途中で聖菜は周囲から伝わってくる霊の波動のようなものを感じていた。
隣には中学の頃からの友人である佐々木和花〔後の神宮寺稀〕が一緒にいた。
「聖菜さん、どうかしたの?」
「嫌な霊の波動を感じる。和花、危険だからあなたは先に帰っていて」
この当時の和花は何の力も持たないごく普通の女子高生であったので〔厳密には自分の潜在能力に気が付かず、そう思っていた〕心配ではあったが、自分がいても足手まといになると思い、聖菜の言葉に従って「気をつけてね」と言って帰路についた。
「那由、あなたも感じているでしょ」
「もちろん。これはかなり強い霊体のようなものだね。怨念というより邪念だね」
那由多の言葉に聖菜のうなずく。
これまで聖菜が出会った中でも一番強いと感じるものであった。
祖父である太蔵の修行を受けて霊媒巫女として活動しているとはいえ、まだその実力を十分に生かせてるとは言い切れない。
だが、聖菜は母譲りの責任感からここは私が行かなきゃとの思いに駆られる。
霊波動を辿ってついた場所は五階建ての雑居ビルであった。
しかし、ビルの周辺には何台ものパトカーと機動隊らしき警官が取り囲んで報道カメラまでいる物々しい状況であった。
「これは。。」
聖菜が雑居ビルに近づこうとすると、その姿を見た一人の刑事が声をかけて来た。
「聖菜ちゃん。どうしてここに?」
母、刀祢美里の友人であった南警察暑の刑事、鈴村龍二である。
「龍二さんがいるって事は何か事件でも?」
「ああ、立てこもり犯だよ。四十代と思われる男が高校生の女の子を人質に取って立てこもっている。いま警察が説得している最中だ。危ないから早く帰りな」
「嫌な感じがするのよね」
「それは霊体の仕業って事?」
「私はそう感じ取っている」
聖菜にそう言われると龍二も考えざるを得ない。
何しろ彼女は美里の娘なのだ。
昔、美里にそう言われた時は確実にそうだったように。
「だとしても、君にはまだ霊媒は早いだろう。とにかくここは警察に任せて帰りな」
「私だってもう霊媒師としていくつか除霊しているんだけど」
「何にせよ、ここはダメだ」
「ケチ!」
聖菜はそう言って現場から立ち去った。
無論、表向きである。
龍二は母の友人であり、聖菜が幼少の頃から可愛がってくれたが、本職は刑事でありこのような事件に遭遇した時にはそこは警察官である。
素人の聖菜を現場に立ち入らせるような事はまず許してくれない。
そこで聖菜はいったん帰るフリをして別の場所からこっそり侵入する事にしたのだ。
「まったく。いまのケチ! って言い方が美里にそっくりだ。親子の血は争えないとはこの事だな」
龍二は聖菜の後ろ姿を見てありし日の美里を思い出し、頭を掻いた。
学生服を着た聖菜は学生時代の美里に本当にそっくりであった。
あの頃から俺は美里に逆らえなかったなと少し恥ずかしくなる事も思い出していた。
最初のコメントを投稿しよう!