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うまく雑居ビルに侵入した聖菜は階段を上がり、上の階へと進んでいた。
「立てこもりの犯人は四十代の男って聞いたけど、感じられる気はもっと若い。。」
雑居ビルを四階まで上がったところで、聖菜は伝わってくる気からこの階だと感じた。
廊下を見渡すと左側がフロアで右側はトイレと給湯室であった。
「手前と奥の二部屋のみね。那由、行くよ」
「気をつけて。かなり邪悪な気を感じるよ」
手前の部屋に入ると立てこもり犯と見られる男が座っていた。
壁にもたれ掛かり、背中から鋭利な刃物でひと突きされたようであった。
壁には血が飛び散り、床には血が流れている。
まだ血が固まっていないところをみると、ついさっきまでは生きていたという事だろう。
「すでにこと切れているわね」
聖剣神楽を取り出すと構えを取る。
「隠れていないで出て来たら。姿が見えなくてもそれだけ強い気を発していたら私でも気がつくわ」
「ふふふ」
「この感じ。。やっぱり霊体はあなたの方だったのね」
聖菜は人質となっていたという女子高生を見る。
「どうしてこんな事を?」
「だって、このクソみたいな男なら殺したところで誰も文句言わないでしょ」
人を一人殺害して笑みを浮かべる女子高生。
狂気と言うよりも無邪気な笑顔であった。
それがより恐ろしさを増長させている。
「そうか。何も考えずに殺戮に走る人間。。いえ、霊体には愚問だったようね」
「お前も同じように斬り刻んでやる」
女子高生の身体から霊体が分離すると、聖菜に一直線に向かってくる。
手には血が付いた包丁のような物を持っていた。
「あれは霊力で作った霊剣。あれで刺されても証拠は何も残らない」
聖菜は包丁の一撃を神楽で弾き返そうとするが、予想を上回る力の強さに押されてしまう。
「く。。」
相当な邪念なのであろうか。
霊体の力と速さは聖菜がこれまで出会った事のないものであった。
殺人に魅せられた狂気の人間の邪念。
聖菜と同い年くらいでなぜこんなに強い殺人願望を。
疑問を感じている間もなく、女子高生は包丁で斬りつけてくる。
その力とスピードに聖菜は辛うじて攻撃を防いでいるものの、押され続けて壁に追い込まれた。
「聖菜、逃げた方がいい。今の君じゃこの霊体は倒せない」
「でも、ここで逃げたらまた新たな犠牲者が。。」
「そんな事言っていたら自分がやられちゃうよ。美里だって。。」
そこまで言って那由多はそれ以上は言うのをやめた。
美里も自分がやらなければという気持ちが強すぎたゆえに命を落とす事になってしまったのだ。
そんな事を娘の聖菜に言うわけにもいかない。
「彼女の殺人願望の理由はわからないけど、とにかく霊体(こいつ)を浄化させないと」
その時である。
他に誰もいないはずの雑居ビルに一人の女性が現れた。
「私がやる。あなたは下がっていなさい」
突然聖菜の前に現れた女性は、二十代後半くらいであろうか。
ロングヘアの黒髪を後ろに束ねて上下黒いスーツで統一された、見た目はボディーガードのような印象であった。
「あなたは誰? あれは霊体よ。普通の人では太刀打ち出来ないわ」
聖菜の言葉に女性は冷ややかに返す。
「そんな事は一切承知している。第一あなただって太刀打ち出来ないじゃない」
それを言われると聖菜も返す言葉がなかった。
女性が持っていたのは普通の剣。いや、焼き打ちされていない模造刀か居合刀のようであった。
「そんなもので霊体が。。」
斬れるわけがない。
聖菜はそう思って見ていた。
「また獲物が一匹増えた。楽しみが増えるわ」
女子高生の霊体が女性の胸を包丁で突き刺そうとした次の瞬間、鋭く振り下ろされた剣が霊体を斬り裂いた。
「これは。。」
聖菜は驚きの表情で見るしかなかった。
剣そのものではなく、振り下ろした剣速と彼女の持つ霊力が霊体を斬ったのだ。
霊体を斬られた女子高生はまるで糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ち倒れた。
聖菜が敵わなかった霊体を一撃で倒すと、女性はどこかに電話を掛けはじめた。
「。。例の女子高生を抑えました。後をよろしくお願いします」
「凄い。あの霊体を一撃で。この人はいったい?」
「その程度なのね。それで本当に刀祢美里の娘なの?」
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