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血の花が咲く 前編
小さい頃、ナイフで自分の指を切って血が出て来るのを眺めていた。
不思議と痛みはそれほど感じなかった。
ただ、流れ出る血を眺めていたいだけで。
何度も何度も自分の指を切り、その度に流れ出る血を眺める。
私は人の血を見るのが嫌いだ。
だけど自分の血だけは何とも思わない。
紙の上に指を置き、血を垂らすと
紙に血の花が咲く。
私にはそれがとても綺麗に見えた。
華やかな街の明かりが照らさせる大通りから一歩脇に逸れた裏道。
薄暗く僅かな光が差し込むだけのそこはまるで別世界のようであった。
その薄暗い通りに一人の女性の姿。
白いコートに身を包み、白のブラウスに黒のクロップドパンツはおそらく動きやすい物を選んだのだろう。
身長は一六五センチほどで女子大生らしき歳ではあるが、おしゃれというよりはモノトーンで統一されたシックな服装である。
髪は肩まで届くセミロング。
やや色白だが、美人と言っていいだろう。
普通に見ればであるが。
しかし彼女の目は鋭く冷淡であった。
まるで氷を思わせるような、あえて例えるなら雪女が似合いそうな雰囲気すらある。
「いい加減に追いかけごっこはやめにしない」
刀祢聖菜はそう言葉を発する。
傍目からみたら、誰に話しかけているのかと思う事だろう。
そこには何も見えないし、いないのだから。
だが、辺りには悪臭が漂っていた。
血の匂い? 獣臭? とにかく嫌な匂いだ。
何かうめき声のようなものが聞こえたと思うと、突然前から何かが飛んできた。
暗くてよくわからなかったが、目の前まで飛んできたそれが切られた人間の頭部である事を確認した。
血生臭い匂いの原因はこれか。
聖菜はそれを面倒くさそうに持っていた剣ではらう。
普通の女性、いや男でも目の前からそんなものが飛んできたら恐怖と驚きで思考が停止するかパニック状態になるだろう。
まだ姿を表さない「それ」も、そうさせるのが目的で投げつけたようだ。
だが彼女はまったく動じない。
「涅槃より甦れ夜叉。わか命に従いこの闇に隠れている悪霊を炙り出せ」
聖菜が式札を上に投げると札は姿を変え、真っ赤な髪に鬼のような二本のツノを持つ式神が現れる。
「夜叉見参」
夜叉は暗闇でも千里先まで見通せる能力を持っていて、暗闇での戦いにはうってつけの式神である。
「見つけたぞ」
闇に紛れて攻撃を仕掛ける霊体は三百メートルほど先に存在していた。
発見と同時に走り出す聖菜。
「逃がさない。必ず仕留める」
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