血の花が咲く 前編

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話は数日前にさかのぼる。 千葉県某市ではこの数日、殺人事件が相次いで起こっていた。 付近の住民は恐怖に慄き、小学校は集団登下校を余儀なくされ、中学、高校も必ず登下校は数人で行動するように。 帰宅後も一人で出歩かないように指示を出していた。 この街に一軒の古いアパートがあった。 築五十年以上は経っているであろう古びたアパートはリフォームもされてなく、階段と玄関のドアも錆びついていた。 トイレは今だに和式で畳の六畳ひと間では借り手もつかず、一階、二階に四部屋ずつの計八部屋あるアパートに現在住んでいるのは男一人であった。 このアパートの大家は男の両親で、赤字は知っているが息子のためにあえてリフォームもせずにこのアパートに住まわしていた。 よほどの甘ったれか我儘という事なのだろうか。 あるいは何か事情があるのか。 付近には警戒中のパトカーが巡回し、警察官の姿もこの街の普段からは想像が付かない数であった。 刀祢神社の神主の娘、刀祢聖菜はそんな雰囲気の中を特に気にする様子もなく家に向かい歩いている。 途中、何人かの警官に声をかけられた。 別に職質ではなく、彼女は神社の巫女としてこの街ではちょっとした有名人で顔も知られている。 警察関係のお祓いも何度か対応したので、挨拶されていたのだ。 「先日からの殺人事件の警戒ですか?」 「ええ。事件はこの辺りを中心に半径二キロ以内で起きています。つまり犯人はこの近隣に潜んでいる可能性が高いわけです。聖菜さんも気をつけて下さい」 「わかりました。ありがとうございます」 足元には一匹の猫。 式神・妖怪猫で名前は那由多(なゆた)。 聖菜の母である美里の代からついている猫で、那由多というのは母、美里が勝手に付けた名前だが本人は意外と気に入っているようである。 そして、なぜか聖菜が呼ばなくても現れる気まぐれものだ。 那由多は人間の言葉を発するし、理解出来る。 「相変わらず古臭い神社だな」 「うるさい。うちには建て直すほどの稼ぎはないんだから仕方ないでしょ。生活には困らない程度の収入はあるんだからいいの」 そのおかげで聖菜は普通に高校、大学と行く事が出来ている。 「聖菜は普段の姿と巫女として悪霊退治する時は全然別人だからな。どっちが本当の姿なのかな」 「断っておくけど、私は別に二重人格って訳じゃないからね。ただ、巫女として霊と戦う時と普通に女子大生している時を離したいだけ」 那由多は不思議そうにそれを聞いている。 「まあ、どっちも聖菜には違いないか」 それだけ言うと昼寝をし始めた。 「わかってるのかな?」 那由多にそう言っても仕方ないかと諦める。 別にわかってもらえなくてもいい。 私がそうしたいからそうしてるだけ。
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