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蓮香は孤児で、ハザマ真理教の経営する福祉施設に通う院生だ。
両親は日本人の父と中国人の母で名前が蓮香という事だけが唯一わかっている事であった。
私もいつかここを出て、社会人として働いて出来れば結婚もして。。
そんな事を考えているうちに十七歳となっていた。
周りを見渡しても蓮香が一番歳上で、他の院生たちの世話を見るお姉さん的存在となっていた。
蓮香のいる施設は「ハザマ学園」という名称で下は十歳から一番上が十七歳まで、約百人が在籍している。
最も一番上の十七歳は蓮香一人だけだが。
ハザマ真理教の経営するこの学園は関東に五ヶ所あり、南地区は一番大きな施設であった。
残りの四ヶ所は横浜、埼玉、八王子、多摩である。
院生と呼ぶのは学校ではなく教団の施設という形式からである。
一つの施設は二十人ずつ五つのクラスに分かれていて、甲乙丙丁戊の名前がついている。
蓮香は甲組に所属している。
そんなある日、学園に教会の教祖である狭間法元が来院するという事で、教員たちはてんてこ舞いであった。
教祖への挨拶の練習、百人いる生徒たちを整列させて、おじぎの練習をみっちり三十分はおこなったであろうか。
さらに院生代表として乙組の生駒舞美(いこままいみ)が歓迎の挨拶を行う事となった。
舞美は蓮香の一つ歳下で十六歳であった。
原稿を手渡されて教員室から出て来た舞美は取り巻きたちに囲まれて施設に入室してくる狭間法元を目にした。
「あれが、教祖。。」
口にこそ出さなかったが、妖怪じみた容姿に感情の通っていないかのような冷たい目。
身長は一六五センチほどの小太りした老人。
ただの年寄りで、威光もなければ貫禄もない。周りが持ち上げて貫禄があるように見せているだけ。
それが初めて見た狭間法元に対する感想であった。
舞美は別にハザマ真理教を信心しているわけではなく、元々は両親が熱心な信者でそれに付き合わされているだけであった。
その両親が交通事故で亡くなって身寄りがない舞美はこの施設に入る事となったのだ。
その関係もあって、世話になっている都合上表向きは信心しているように振る舞っているが、実際には興味がないと言ってよかった。
当然ながら法元に対しても普通の年寄りという印象しかもたない。
他の信者から見れば神のような存在だとしても舞美にはそんなオーラも人徳も感じる事は出来なかったのだ。
とは言え、役目として言われてしまった以上、嫌でもやるしかない。
舞美は気乗りしない気持ちを抑えて用意された原稿を読み上げた。
「教祖様、本日は当施設にお越し頂き誠にありがとうございます。私たちは教祖様のご恩恵により、こうして施設で暮らす事が出来て幸せでございます。
私たちはこの施設で生きている事に感謝の念と人の役に立てる喜びを日々学んでおります。
これからも愛とご慈悲を持ちまして私たちを見守り下さい」
いかにも用意された台本をただ読まされているだけとわかる挨拶言葉であった。
それを見る狭間法元の表情はにこりともせず、終始無表情であった。
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