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「逃したじゃねえぞ馬鹿野郎」
部下の報告に法元の側近の一人、坂松透は医師と部下たちに怒声を浴びせる。
何かあればすぐ怒鳴り喚き散らすのがこの男の特徴であった。
「只今、総動員して行方を追っています。見つけ次第射殺致しましょうか?」
「射殺致しましょうかだと。そんな事いちいち聞いてくるんじゃねえ。無能どもが。てめえらで逃したんだからてめえらで始末つけろ」
坂松の言葉に部下たちも霹靂していた。
たとえ逃したのが部下たちだとしても責任を取るのが上司たる務めであろうに。
毎回何かある事に部下たちを無能呼ばわりして自分は怒鳴り散らすだけの狂犬に部下たちは「逃げた怪物よりも坂松の方を退治したいくらいだな」と思っても口に出しては言わなかったが。
そうこうしている間に怒鳴り散らしている坂松に法元の使いがやってきた。
「坂松、教祖様がお呼びだ」
その声に舌打ちしながら教祖室へと向かう。
「実験台を逃したそうだな」
法元の言葉に坂松は頭を下げる。
「私が少し目を離した隙に部下たちが逃してしまい申し訳ございません」
いかにも部下の失態で自分に責任はないという人ごとの物言いであった。
「わかっていると思うが、あれはまだ実験段階のもの。万一この事が世間に知られては我々の実験が国家と警察に中断されてしまう。早く回収しろ。いいな」
「はい。三日以内に必ずや捕らえてみせましょう」
坂松はそう断言して教祖室から退出した。
「いつもの口先だけか。三日以内に捕らえてみせるとは何の根拠があって言っているのかのう。まあよい。わしは彼奴の威勢の良さを買っているのだからな。出来る出来ないは置いておいて意気込みを口に出す事が肝心よ」
法元はそう言い終えると別の部下を呼び出した。
「横浜の教会に連絡を入れておけ。また宗像凛に動いてもらう。凛にこの南町に来る事と今度のは少しばかり手強いと伝えるようにな」
「承知いたしました」
部下が部屋から立ち去ると法元は薄笑いを浮かべた。
「威勢の良さを買うのと信用するのは別だ。坂松を信用するなどブレーキの壊れた車に乗るようなものだからな。人を殺すにはもってこいだが、それだけの特攻車よ。安全運転が問われるような場面に故障車はいらぬわ」
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